32期連続で増収増益を続けるニトリホールディングス。前編ではユニークな人事制度である「エンプロイー・ジャーニーマップ」を紹介した。後編も引き続き永島寛之氏に、新入社員の採用やインターンシップなどにもマーケティング視点を取り入れた狙いなどを聞いた。

ニトリホールディングス組織開発室室長の永島寛之氏
ニトリホールディングス組織開発室室長の永島寛之氏
永島 寛之(ながしま ひろゆき)氏
ニトリホールディングス組織開発室室長、人材教育部マネジャー
1998年東レ入社。2007年にソニー入社。ソニーラテンアメリカ(米国フロリダ)赴任。米国出店を果たしたニトリに興味を持ち2013年ニトリホールディングスに入社。店長、採用教育部マネジャーを務めた後、2019年から現職。従業員の成長を起点としたタレントマネジメントをテクノロジーで構築することに全力投入中。教育のテーマは「越境好奇心」。

 後編は話を人事異動や新入社員の採用に移す。ニトリホールディングスは、インターンシップに力を入れており、楽天が運営する就職活動情報サイト「楽天みん就」が発表した2021年卒業予定の学生を対象にした「インターンシップ人気企業ランキング」で1位を獲得した。この高評価の背景にもマーケティング視点があるという。

あくまでも顧客と接する最前線「店舗」が基本

人事異動はどのように行われますか。

永島寛之氏(以下、永島) ニトリには3年から5年の間隔で、「部署をまたいだ異動(配置転換)」をするというルールがあります。例えば商品開発にいた人は、店舗運営部だったり、営業企画室に異動したりと、必ず大きく部署を変えます。従業員約5500人の会社ですが、毎週50人分くらいの辞令を出しているんです。

 ニトリにはもうひとつ、本部勤務が7年経過したら「店舗に戻る」というルールもあります。これもニトリの特徴の一つです。あくまでも店舗が主体なので、本部から店舗へ異動するときに「戻る」という表現を使います。

 本部にいると現場(=店舗)がだんだん見えなくなってくる。それを防ぐのが目的です。執行役員の1人が10年たったので肩書は執行役員のまま「店舗担当」という名刺に変わって楽しそうにしていたのを思い出します(笑)。半年間、店舗を経験した後はまた別の部署の執行役員になりました。

「楽しそうに」というところに現場主義が感じられます。

永島 こうしたルールがあるために、部署がサイロ化して横のつながりが失われることをほぼ防止できていると思います。ニトリには横串の部署がないのですが、たとえ上下関係の断絶はあったとしても、横のコミュニケーションに問題は起きていません。上司も部下も入れ替わりますから、派閥みたいなものも生まれにくいですね。

 ノウハウが蓄積しづらいというデメリットもありますが、そのおかげで常に新しい視点で部署改革したりといったことができるんです。

顧客(=就活生)の困りごとを解決する

以前は新卒の採用も担当していたそうですね。

永島 私が新卒採用を担当することになった1年目からカスタマー・ジャーニーマップと同じ考え方を重視しました。要はニトリの社風や方針に共感してくれた人は、たとえニトリに入社してくれなかったとしても、ほかの人材に(ニトリを)推薦してくれるため、新たな人材発掘につながるのです。買わなくても製品に満足すれば他者に推薦してくれるのと同じ理屈です。

「楽天みん就」の2021年卒大学や大学院生の「インターンシップ人気企業ランキング」でトップを獲得した
「楽天みん就」の2021年卒大学や大学院生の「インターンシップ人気企業ランキング」でトップを獲得した

 そのためインターンシップに注力しました。私は「顧客に寄り添って困りごとを無くす」というのが商品開発の第一歩だと思っています。なので、インターンシップの目標を、採用者の確保よりも「困っている就活生をゼロにする」ことを優先しました。就活生の困りごとの多くは、就職に対する恐怖感に由来します。ニトリのインターンシップでは、就活に関するいろんな情報を教えるようにしました。

 結果として何が起こったかというと「ニトリのインターンシップに参加すると就活の勉強になる」と、参加した就活生たちが、どんどんと新しい学生を誘い入れてくれるようになりました。自社に興味を持ってくれる学生の母集団を確保するのに苦労されている企業が多いなか、ニトリは学生たちの口コミがとても機能するようになったわけです。

まさにファンマーケティングですね。

永島 そうです。インターンシップでは店頭で商品を販売する以外に、商品開発やマーケティングなど、最大4つの業界を体験できるプログラムを用意しました。商品開発を学ぶための合宿に300人ほどを招待したりもしました。

 1泊2日の合宿では、家庭での困りごとをビデオに収め、参加者で話し合ってそこからテーマを1つに絞り、原価計算も含めて商品のプロトタイプづくりを体験してもらいました。その体験からものづくりに興味を持ち、メーカーに就職した学生も多かったですね。実際に「ニトリの合宿で学んだことを面接で話したらメーカーへの就職が決まりました」なんていう報告も受けています(笑)。

2019年のインターン合宿の様子
2019年のインターン合宿の様子

ニトリが求めるのは、小売業志望でない人材

インターンでものづくりに注力した理由は。

永島 ニトリを「新しいことを始めたい」という人の集団に変えるためです。直近の2年間、新卒だけでも約1200人を採用しました。当時はメーカーや金融志望の学生が集まるような場にひたすら出かけてアプローチを続け、結果的に新入社員は小売りを目指していなかった人がほとんどになりました。「将来やりたいこと」として、グローバル展開をはじめ既存の事業を新たな方向へ広げていくといった、「その先」を考えてくれている人ばかりです。

 楽天が運営する「みん就(みんなの就職活動日記)」の調査によりますと、それがデータとしてはっきり現れています。うちに興味を持っている人がほかにどんな会社を気にしているかというと、メーカーを筆頭に、商社や金融、保険などばかりで、小売業や流通を志望している人はほとんどいません。

 もちろん、入社後は小売りの現場も体験します。しかしそれはその先の「やりたいこと」を実現するための勉強でもある。この点はエンプロイー・ジャーニーマップを使ってしっかり理解してもらおうと思っています。

小売り以外を志望する学生を採用したのは新規事業への対応ですか。

永島 新規事業として新しいフォーマットの開発や宿泊施設の開業を進めていますが、その専門家を育てるようなことはしません。本当に専門性が必要なところは外部の方を受け入れたりしますが、運営に当たるのはニトリのコアコンピタンスをしっかり理解している人間、つまりニトリの社員が担当します。ニトリの理想は、社員全員が顧客のニーズを商品やサービスとして提供できることなので、新規事業のためだけの人材を採用することはありません。

人事以外の分野でニトリが他社と比べて面白い点は。

永島 ニトリは取り扱い商品の80%がPB(プライベートブランド)です。商品の企画・バイイングから製造・販売、そして顧客の自宅での商品の組み立てまで行います。カスタマー・ジャーニーのすべてをニトリ1社で網羅しています。

 でも、面白いことにマーケティングを担当する専門部署はありません。実はテレビCMのシナリオを考えているのは、広告代理店の人ではなく、店舗に勤めるパートの方なんです。これは会長(似鳥昭雄氏)の考えなのですが、「顧客を一番理解しているのは媒体や代理店ではなく、うちの店員だ」と。だからテレビCMのシナリオは店員からの公募で選んでいます。シナリオが選ばれると、そのテレビCMの撮影に立ち会えるんです。一種のインセンティブですね。

 全店、全店員、全社員でマーケティングをしていくのがニトリのやり方です。だから「競合はどこ?」「シェアはどのくらい?」という質問は、人によって口にする数字が違ったりします。店舗数が増えていながら既存店の売り上げが前年を上回っているなら、それはバリューを生んでる証拠。そこさえ踏まえていれば他社との比較に大きな意味はないという考えですね。

PBの開発などはどのようにされているのですか。

永島 バイイングを担当する社員は何かを買い付けるだけでなく、「開発バイヤー」として自分で工場を探して製造まで面倒を見ます。余計なコストなどをかけずに、PB商品で気軽に豊かな暮らしを楽しんでいただけることがニトリの一つの理想です。転職当時はここまで独創的な会社だとは気づいていませんでしたけどね。

(写真/中村宏、写真提供/ニトリホールディングス)