32期連続で増収増益を続けるニトリホールディングス。前編ではユニークな人事制度である「エンプロイー・ジャーニーマップ」を紹介した。後編も引き続き永島寛之氏に、新入社員の採用やインターンシップなどにもマーケティング視点を取り入れた狙いなどを聞いた。
ニトリホールディングス組織開発室室長、人材教育部マネジャー
後編は話を人事異動や新入社員の採用に移す。ニトリホールディングスは、インターンシップに力を入れており、楽天が運営する就職活動情報サイト「楽天みん就」が発表した2021年卒業予定の学生を対象にした「インターンシップ人気企業ランキング」で1位を獲得した。この高評価の背景にもマーケティング視点があるという。
あくまでも顧客と接する最前線「店舗」が基本
人事異動はどのように行われますか。
永島寛之氏(以下、永島) ニトリには3年から5年の間隔で、「部署をまたいだ異動(配置転換)」をするというルールがあります。例えば商品開発にいた人は、店舗運営部だったり、営業企画室に異動したりと、必ず大きく部署を変えます。従業員約5500人の会社ですが、毎週50人分くらいの辞令を出しているんです。
ニトリにはもうひとつ、本部勤務が7年経過したら「店舗に戻る」というルールもあります。これもニトリの特徴の一つです。あくまでも店舗が主体なので、本部から店舗へ異動するときに「戻る」という表現を使います。
本部にいると現場(=店舗)がだんだん見えなくなってくる。それを防ぐのが目的です。執行役員の1人が10年たったので肩書は執行役員のまま「店舗担当」という名刺に変わって楽しそうにしていたのを思い出します(笑)。半年間、店舗を経験した後はまた別の部署の執行役員になりました。
「楽しそうに」というところに現場主義が感じられます。
永島 こうしたルールがあるために、部署がサイロ化して横のつながりが失われることをほぼ防止できていると思います。ニトリには横串の部署がないのですが、たとえ上下関係の断絶はあったとしても、横のコミュニケーションに問題は起きていません。上司も部下も入れ替わりますから、派閥みたいなものも生まれにくいですね。
ノウハウが蓄積しづらいというデメリットもありますが、そのおかげで常に新しい視点で部署改革したりといったことができるんです。
顧客(=就活生)の困りごとを解決する
以前は新卒の採用も担当していたそうですね。
永島 私が新卒採用を担当することになった1年目からカスタマー・ジャーニーマップと同じ考え方を重視しました。要はニトリの社風や方針に共感してくれた人は、たとえニトリに入社してくれなかったとしても、ほかの人材に(ニトリを)推薦してくれるため、新たな人材発掘につながるのです。買わなくても製品に満足すれば他者に推薦してくれるのと同じ理屈です。
そのためインターンシップに注力しました。私は「顧客に寄り添って困りごとを無くす」というのが商品開発の第一歩だと思っています。なので、インターンシップの目標を、採用者の確保よりも「困っている就活生をゼロにする」ことを優先しました。就活生の困りごとの多くは、就職に対する恐怖感に由来します。ニトリのインターンシップでは、就活に関するいろんな情報を教えるようにしました。
結果として何が起こったかというと「ニトリのインターンシップに参加すると就活の勉強になる」と、参加した就活生たちが、どんどんと新しい学生を誘い入れてくれるようになりました。自社に興味を持ってくれる学生の母集団を確保するのに苦労されている企業が多いなか、ニトリは学生たちの口コミがとても機能するようになったわけです。
まさにファンマーケティングですね。
永島 そうです。インターンシップでは店頭で商品を販売する以外に、商品開発やマーケティングなど、最大4つの業界を体験できるプログラムを用意しました。商品開発を学ぶための合宿に300人ほどを招待したりもしました。
1泊2日の合宿では、家庭での困りごとをビデオに収め、参加者で話し合ってそこからテーマを1つに絞り、原価計算も含めて商品のプロトタイプづくりを体験してもらいました。その体験からものづくりに興味を持ち、メーカーに就職した学生も多かったですね。実際に「ニトリの合宿で学んだことを面接で話したらメーカーへの就職が決まりました」なんていう報告も受けています(笑)。