富士通は振動と光で音を感じることができるユーザーインターフェース「Ontenna(オンテナ)」を開発。聴覚障害者のニーズを何度も聞き取ったうえで、障害の有無にかかわらず皆で“楽しめる”ものとしてデザインした。ユーザー自身が拡張できる「ハッカブル」なデバイスを目指す。
オンテナはヘアピンのようなクリップ型で、髪の毛や耳たぶ、襟元、袖口などに付けて使用する。本体にマイクが付いており、約60~90デシベルの音を256段階の振動と光に変換。リアルタイムに音のリズムやパターン、大きさを、聴覚とは別に知覚できる。通信機能付きコントローラーを使えば、複数のオンテナに同じタイミングで振動や光を送ることも可能だ。
誰もが使ってみたくなるデザイン
研究は、大学在学中の2012年から開始した。「大学の先生が、視覚に障害のある人が物体を認識できるシンプルでデザイン性の高いインターフェースを開発していた。それに影響を受けた。僕には聴覚障害のある友人がいて、彼も音を楽しめたらいいな思っていたので、デザインとテクノロジーを使って知覚を拡張する研究を始めた」(本多氏)。
クリップ型の形状にたどり着くまで、試行錯誤したという。本多氏はグローブのように手にはめるタイプや体に貼るシート状のものなど、さまざまなプロトタイプを制作。それらをすべて聴覚障害のある友人に試してもらい、意見を聞いて改善することを何回も繰り返した。
「富士通に入社後、テストマーケティングのためにろう学校にも通い、そこの先生や生徒の意見も参考にした。開発の方向性として、危険な音を感知して振動と光で伝えるという方向性もあった。だが、生徒たちが音を振動で感じているときの笑顔を見て、“楽しめるもの”を目指すという方向性は間違っていないと確信できた」(本多氏)
髪の毛をインターフェースにするというアイデアが、ブレークスルーのきっかけとなった。「ネクタイピンのようなクリップタイプのプロトタイプができたので、試しに髪の毛に付けてもらった。すると、アクセサリーのようで見た目もかわいいし、振動も伝わりやすいことが分かった」(同)。
音楽やスポーツのイベントなどで大規模な実証実験も行った。「卓球の試合で、球の音を振動に変換する実験をしたとき、聴覚障害のあるお子さんと、聴覚障害のないご両親が一緒にオンテナを付けて卓球の試合を見ていた。試合後に『あのときのスマッシュの振動、すごかったね』といった会話をしていた。障害の有無にかかわらず活用でき、新しいコミュニケーションも生みだせると実感できた」と本多氏は話す。
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