世界各地の現代美術を積極的に紹介している森美術館。2018年の美術展覧会入場者数では、1位・2位を達成した(『美術手帖』調べ)。国公立の美術館で開催された大規模展覧会よりも、六本木の私立美術館の展覧会のほうが入場者数を集めた理由とは。プロモーション担当者に話を聞いた。
森ビル 森アーツセンター森美術館マーケティンググループ広報・プロモーション担当シニアエキスパート
砂漠に水はまかない、ターゲティングと認知がキモ
まずは森美術館について教えてください。
洞田貫晋一朗氏(以下、洞田貫) 森美術館では現代美術の自主企画展を行っています。お客は20~30代がコア層で、男女比は半々です。2017年11月~18年4月に開催された「レアンドロ・エルリッヒ展」では、10代が17.2%、20代が39.4%、30代が14.7%でした。
展覧会のプロモーションはどのように行っているのでしょうか。
洞田貫 さまざまな手を打ちますが、中でもデジタルを中心にプロモーションを行っています。展覧会の内容によってどの層が興味を持つのか変わってくるので、SNSをつぶさに見てチェックしています。展覧会によってデザイン系の人の関心が高そうだとか、ファッション、お出かけ・旅行に興味があるなどさまざまです。それぞれの層に合わせてプロモーションを打っています。
例えば、19年6月20日~10月27日に行われている塩田千春さんの展覧会ですと、ファッション、映画、音楽に関心の高い方が多いです。
塩田千春さんや展覧会について投稿している人は氷山の一角で、その周りに掘り起こすべき人が大勢います。ですから首都圏在住、20~30代とさらに絞って、ファッション、映画、音楽に興味がある人に向けてプロモーションします。
具体的には展覧会や塩田千春さんに関連するキーワードで検索したことがある人に、GoogleやYahoo!などでアド広告を出しています。展覧会のキービジュアルをバナー化して、展覧会の情報が目に入るようにします。
森美術館は1つの展覧会を3~4カ月開催するなど、他の美術館と違って期間が長いものが多い。プロモーションは時期によってメリハリを付けているのでしょうか。
洞田貫 力を入れているのは会期前とスタート時点。そのときは展覧会のタイトルやキービジュアルをバナー化して、ひたすら刷り込みます。会期中盤は展覧会があることを知っている方に向けて、SNSで展覧会の様子や展示内容についてお知らせしていきます。森美術館は日本で最もフォロワー数の多い美術館で、Instagram、Twitter、Facebookの合計フォロワー数は41万人以上にもなります。会期後半は展示内容を掘り下げてSNSに投稿しつつ、会期終了日までのカウントダウンを行います。
有名な展覧会であれば、展示の内容をお知らせしていくのがいいと思います。しかし現代美術の場合、大事なのは認知。プロモーションでは最初の認知がキモだと思っています。ただ、情報を1回見ただけでは、実際に足を運ぶまでには至りません。再度、別の角度から情報が入ったとき、例えば知り合いが森美術館の投稿をしたときなどに、「行ってみようかな」という気持ちになるのだと思います。
ですから、ターゲットを絞った認知と刷り込みは大切です。来てくれそうな人にきちんと届けないと、砂漠に水をまくようなことになってしまいます。
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