モバイルアプリ計測プラットフォームで世界最大手のAdjust(アジャスト)は、2012年にドイツのベルリンで創業したスタートアップ。19年1月には、イスラエルの人工知能スタートアップ、Unbotify(アンボッティファイ)を買収した。来日した両社のCEOに、両国のスタートアップ事情について聞いた。

来日したアジャストとアンボッティファイの経営陣。右からアンボッティファイのヤロン・オリカーCEO兼共同創業者、アジャストのクリスチャン・ヘンシェルCEO兼共同創業者、ポール H.ミュラーCTO兼共同創業者、カントリーマネージャーの佐々直紀氏
来日したアジャストとアンボッティファイの経営陣。右からアンボッティファイのヤロン・オリカーCEO兼共同創業者、アジャストのクリスチャン・ヘンシェルCEO兼共同創業者、ポール H.ミュラーCTO兼共同創業者、カントリーマネージャーの佐々直紀氏

 アジャストはモバイルアプリ計測プラットフォームの世界最大手。世界中の2万5000以上のアプリに既に導入されている。同社は19年5月、収集した上位1000のアプリデータを基に「Adjust Grobal App Trends 2019」(ベンチマークレポート)をまとめた。インストール数で見ると、日本市場ではRPGやシューティングなど課金アイテムのある「ミッドコアゲーム」が最も多く、次いでパズルなど無料で楽しめる「カジュアルゲーム」が続く。3位は「ショッピングアプリ」、4位は「マーケットプレイス(フリマ)アプリ」となった。

 この傾向は欧米とはやや異なる。欧米ではミッドコアゲームよりもカジュアルゲームが人気。また「コミュニケーションアプリ」が、カジュアルゲームに次ぐ2位に入っている。対して日本では、コミュニケーションアプリは8位にとどまった。また世界的にはライドシェアや配車アプリのダウンロード数が高い伸びを見せているが、日本では伸びが小さいという。ライドシェアが解禁されないなど、法規制が影響しているようだ。

 アジャストはインストール後のアプリの利用状況もモニタリングしている。ユーザーの継続率は高いとは言えず、グローバルではインストール翌日には平均で69%のユーザーが離脱し、1週間後まで継続するのは僅か21%に過ぎないという。継続率が高いのは毎日利用するゲームやニュース、ソーシャルアプリ、逆に低いのはフードデリバリーやショッピング、旅行アプリという。

 1人のユーザーが1日にアプリを何回起動するかも統計データが取られている。日本のユーザーが最もよく起動するのはソーシャルネットワークアプリで、平均2.93回。ミッドコアゲームやマッチングアプリも平均2.5回を超えている。他方、ショッピングアプリは1日平均1回を切っている。ダウンロードはされるものの、継続利用につながりにくいことが浮き彫りになった形だ。

 こうしたデータを収集、分析するツールを作った背景には、アジャストの共同創業者であるクリスチャン・ヘンシェル氏の切実な思いがあったという。

なぜアジャストを立ち上げたのか。

クリスチャン・ヘンシェル氏(以下、ヘンシェル) もともと私は音楽専門チャンネルのMTVなどを運営するバイアコムに勤めていた。そこで関わったいくつかのプロジェクトの中に「スポンジボブ」のモバイルアプリを作るというものがあった。ユーザーを集めるためにテレビ広告やデジタルキャンペーンを打ち、専用Webサイトも立ち上げた。しかし、どこからユーザーが流入し、一体どのマーケティングキャンペーンがユーザー獲得につながったのかを知るすべがなかった。これでは、どこに投資を増やせばいいのかが分からない。効果を測定するツールが必要だと痛感した。

 そんなときに、共同創業者で現在はCTO(最高技術責任者)を務めるポール H.ミュラーと出会った。彼が開発していたモバイルアプリの分析・計測テクノロジーを見て、これはすごいなと思った。ユーザーがどのようにアプリを見つけ、インストール後にどのように利用しているのかが確認できるからだ。世の中のスマートフォンシフトが進むことは容易に予想でき、これはビジネスになると確信した。

クリスチャン・ヘンシェル(Christian Henschel)氏
アジャスト CEO兼共同創業者
2012年にポール H.ミュラー氏らと共同でAdeven(現・アジャスト)を創業。モバイルアプリユーザーとその流入元となった広告や効果があったキャンペーンをひも付ける測定ツールを開発し、4年間で黒字に転換させた。現在は世界15の地域に展開し、2万5000を超えるモバイルアプリがアジャストのソフトウエア開発キットを採用。広告費用ベースで世界42%のシェアを持つという。フェイスブック、グーグル、ツイッター、ライン、テンセントなどの正式マーケティングパートナー

「起業の聖地」と言われるベルリンで創業した理由は。

ヘンシェル  我々が創業した7年前は今ほど起業のシステムが整っていなかったので、資金調達には苦労した。当時はまだ欧州に有力なVC(ベンチャーキャピタル)が進出していなかったからだ。ただ、公的な支援はあって、融資や助成金を得ることができた。ピッチなども行い、最終的には1100万ユーロ(約13億3100万円)を集めることができた。

 ベルリンがスタートアップの聖地となったのはなぜか。ドイツの中でミュンヘンやシュッツトガルトは自動車産業で有名だ。これに対して、ベルリンには主だった産業がなかった。だから、オープンスペースが多くあり、若い世代やクリエイティビティーのある人たちをひきつけている。今ではVCも多く進出しており、我々の頃より起業しやすくなっている。

 人材獲得の面では、ベルリンがドイツの中で最も国際的な都市であることが利点になる。今、我が社には54の国籍を持つ社員が集まっている。中にはシリコンバレーのあるサンフランシスコから移ってきた人間もいる。他の都市に比べて、生活費が比較的安価なのも魅力的だろう。

ベルリンにはどのようなスタートアップが多いのか。

ヘンシェル  ビジネスモデルとしてはBtoCが多いが、最近はBtoBのソフトウエア関連の会社も増えてきた。これは課題でもありチャンスでもあるのだが、ドイツの国内市場は小さい。なので、会社を大きくするなら最初から海外進出を考えることが必須になる。アジャストの場合、創業からわずか1年4カ月後にはサンフランシスコにオフィスを構えた。

スタートアップ企業の比率が世界一のイスラエル企業を買収

19年にイスラエルのスタートアップであるアンボッティファイを傘下に収めた。どのような経緯で買収に至ったのか。

ヘンシェル  最近問題となっているのが、アプリ内で人間のふりをして不正な操作を行う「ボット」だ。例えばゲームアプリを勝手にプレイするボットは対戦相手の満足度を下げ、アプリ利用をやめさせてしまう。このようなボットによる広告主の経済的な損失額は、19年には190億ドル(約2兆900億円)に達すると予測されている。アジャストはモバイル計測ツールに加えてアドフラウド(広告不正)防止ツールを提供しているが、クライアントからボットを検出してほしいという要望が日に日に高まっていた。