年間最高で650万足を売り上げたアキレスの子供用運動靴「瞬足」。2018年にはシリーズに上履きが加わり、19年2月にはシンプルで大人っぽいデザインの新製品も追加され、いずれも販売好調。子供の足を健康に育てる「足育」活動から見えた戦略とは。アキレスの伊藤守社長にジュニアシューズ市場の現状と未来を聞いた。

アキレスの瞬足シリーズは03年に発売され、大ヒットを記録
アキレスの瞬足シリーズは03年に発売され、大ヒットを記録

まず、現在のジュニアシューズ市場について教えてください。

伊藤守社長(以下、伊藤) ジュニアシューズのターゲットは、幼稚園、保育園から小学校6年生までの9学年。1学年は約100万人なので、トータルでおよそ900万~1000万人います。

 子供は年間1センチメートルほど足のサイズが大きくなる。そして、大きく分けて通学、お出かけ、上履きと3つのニーズがあり、部活をしている子供はスポーツ用シューズもプラスされます。年間最低それぞれ2足は購入すると考えれば、単純計算で6000万足の市場があると言えるのです。

伊藤 守(いとう まもる)氏
アキレス 社長
1976年、山形大学工学部卒業、79年に東京工業大学大学院修士課程を修了し、同年、アキレス入社。02年、執行役員電子材料開発担当兼研究開発本部開発第一グループ長、06年、取締役開発本部長など、要職を歴任し、12年6月から現職

そんな中、トップランナーである瞬足の売り上げはどのように推移していますか。

伊藤 瞬足はご存じの通り、左右非対称のスパイクを配置したソールで左回りのコーナーに強いシューズとして、03年に発売しました。キャッチフレーズは、「速い子はより速く、苦手な子には“夢”を」です。

 19年3月までの累計販売数は7000万足に達しています。ピーク時には年間650万足を売り上げ、ジュニアシューズ市場の30~40%のシェアを占めていたほど。しかし、ここ5年くらいは、年間400万足弱の販売数になっています。

 その理由の1つは、競争の激化があります。瞬足がヒットしたことで、子供用シューズ市場を見いだした他のナショナルブランドが次々に参入してきました。例えば、ナイキやアディダス、ニューバランスなどです。特に高学年の子は、それらのかっこいいデザインに引かれて流出してしまい、瞬足のユーザーが低年齢化したという背景が影響していると思います。

"おしゃれ瞬足”が初速好調

2月に発売された瞬足の新シリーズ「SL BY SYUNSOKU」は、これまでの瞬足とは一線を画して、デザインがかなり洗練されています。これは“瞬足離れ”が進んだ高学年の子供たちをターゲットにしているのですか。

伊藤 もちろん、高学年の子供たちを捉えたいという狙いがあります。ユニセックスなデザインで、瞬足としては初めてモノトーンを採用しました。オシャレを意識する子供が増えていることが、その背景にある。また、このデザインなら通学や運動会で履く以外に、お出掛けのシーンにもマッチして“経済的”なので、親が選ぶという傾向もあります。もちろん、デザインだけでなく、ソールの反発性と衝撃吸収性といった機能面も向上しています。

「SL BY SYUNSOKU」は大人のスニーカー市場で人気の“ハイブリッドスニーカー”のテイストを取り入れている。価格は税別3900円
「SL BY SYUNSOKU」は大人のスニーカー市場で人気の“ハイブリッドスニーカー”のテイストを取り入れている。価格は税別3900円

SL BY SYUNSOKUの価格は、従来品に比べて500円前後高めの税別3900円ですが、ユーザーの反応はどうでしょうか。

伊藤 発売以降3月までに2万4000足が売れていて、年間で7万足を見込んでいます。好調な出だしだと思います。

 瞬足が最初に発売された頃、ジュニアシューズには「2000円の壁」がありました。そこを瞬足は2500円という強気の価格で突破した。今では3300~3500円がメインの価格帯となっており、それが消費者に受け入れられています。

 また、18年に発売した瞬足シリーズの上履き「瞬足@スクール」は、2500円で売り出しました。上履きの市場は1000円前後がボリュームゾーンの中で、2倍以上の価格です。それでも選んでくれる層が一定数いることが分かった。子供が「我慢して履く靴」ではダメだと、分かっている親がいるということです。

「我慢して履く靴」と、瞬足@スクールの違いは何でしょう。

伊藤 我々は、瞬足の発売後から子供の足の健康に着目した「足育」活動を続けています。速く走るためには、まず健康な足でなければならないからです。瞬足もジャストフィットで履いてほしいので、0.5刻みのサイズ展開にしています。

 足育活動を通じて子供の足のデータを取り直した結果、生活スタイルが変化していく中で子供の歩く機会が減少し、以前と比べて足が細く、足囲(親指の付け根から小指の付け根までの外周)が狭くなっていることが分かりました。さらに、足に合わない靴のせいで外反母趾(がいはんぼし)や浮き指、偏平足(へんぺいそく)という足のトラブルが大幅に増えている。

 例えば浮き指は、指が地面に着地していない状態です。1980年は93%の子供が「1本もない」状態だったのに対し、04年にはその割合が8%にまで激減しています。

 子供に正しい靴を履いてほしいと考えたとき、1日で最も着用時間が長いのが上履きだと思い至りました。ところが、一般的な上履きはどれも簡単な構造で、かかとがすぐにつぶれたり、フィットせずにぶかぶかの状態だったり、底が薄くて衝撃が直接足に伝わってしまったりする。

 そこで、かかとをしっかりホールドできるよう強化し、足囲は一般的な上履きよりも狭い、スリムな「1.5E」サイズに設定。ソールに衝撃吸収素材を使って足の負担も軽減させるなど、子供の足を守る機能を格段に高めました。“究極の上履き”です。

 多くの保護者は「どうせすぐサイズが変わるから」と安い上履きを選びがちです。しかし、我々は保護者に対する啓蒙活動も同時に実施して、瞬足@スクールの機能性を理解してもらうよう努めています。その結果、徐々に認知が広がり、18年度の売り上げは5万足に達しました。アキレスが販売する(ボリュームゾーンの価格帯の)一般の上履きが年間600万足売れているので、それに比べればまだ1%弱。ですが、親の意識が変化してきたのは感じており、「一度履いてみたら、やはり瞬足@スクールがいい」という声も多い。

価格が安い一般の上履きには、足育の知見は反映されていないのですか。

伊藤 今計画をしているところです。ただ、生産コストもかかるため価格を抑えるのが難しい。現在の価格(1000円前後)から瞬足@スクール(2300~2500円)の中間くらいを目指している。20年には発売したいと考えています。

 同時に、一番下の価格ラインのものを今後も売り続けていいのかという思いもある。(瞬足@スクールの発売は)一般の上履きの質が悪いとPRしているようなものですから。売れるから作るというのではなく、どこかで踏ん切りをつけないといけないのかもしれません。

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