実産業を持つ日本に強み

 また企業などのミドル層、マネジメント層にも課題があるという。「この層にこそ、実際の課題とサイエンス、エンジニアリングとをつなぐアーキテクト的な人材が多く必要。だが今はほとんどいない。スキルを学び直さないと、みんな見捨てられてしまう。このままいくと『邪魔なおじさん』ばかりが増えて世の中をダメにしてしまう。データはない、技術はない、人はいない、その上規制が多い、これでは全く勝負にならない。今の日本の状況は1853年の黒船来航の時代と同じなのではないか」と安宅氏は嘆く。

大石基之(日経 xTECH編集長)、吾妻拓(日経クロストレンド編集長)と討論するヤフーの安宅和人CSO(右)
大石基之(日経 xTECH編集長)、吾妻拓(日経クロストレンド編集長)と討論するヤフーの安宅和人CSO(右)

 産業革命を大局的に見ると3段階に分かれるという。第1フェーズは蒸気機関などといった新エネルギーと技術が生まれる時期。第2フェーズはさまざまな製品が生まれ高度な応用が進む時期。そして第3フェーズはそれらの製品が複雑につながって、エコシステムを構築していくという時期だ。日本はこれまで第1フェーズをやったことがなく、第2フェーズ、第3フェーズで勝ち上がってきたというのが安宅氏の指摘だ。

 「ビッグデータの技術も相当こなれてきた。今は産業のデータ×AI化が一気に進む一歩手前のフェーズにいると思う。これまでのフェーズでは米国と中国に支配されてきたが、多くの実産業分野で存在感を持つ日本には、これから相当なチャンスが訪れるだろう。なぜなら、実産業を持たない企業はデータなり知見なりを得る方法がないからだ」と安宅氏は言う。

 ここで安宅氏は、2016年に公開された映画「シン・ゴジラ」のセリフを引用する。「映画の中の印象的なセリフが、『この国はスクラップ&ビルドでのし上がってきた。今度も立ち上がれる』。まさにそうだと思う」。

 では、これから必要とされるのはどのような人材なのだろうか。安宅氏は次のように語る。「我々が描く課題や夢を技術で解いて、それをデザイン的にパッケージングできるような人が必要だ。特に夢の部分が重要で、目に見えない価値を生み出すことが大切になってくるだろう」。

 そのためには境界領域で力を発揮する人材も重要だと指摘する。複数領域の専門性を掛け合わせて持つ必要があるというのだ。「今までのように、大学が特定の専門ごとに人を採って育てるのではなく、横断型プログラムを作って境界領域の人材を育てる点を相当に工夫する必要があると思う」と安宅氏は語る。

異人を認め、そして育てる

 今までの競争型の人材というより、普通の人が価値を見いださないようなところに価値を見いだす“異人”ともいうべき人材を認め育てる必要があるという。「トーマス・エジソンが創業したのが21歳、グラハム・ベルが電話を発明したのが28歳、松下幸之助が創業したのが23歳。これまで大きな革新の多くは若者によって行われてきた。こういった人を引き上げ、育ててあげることが大切だ」。

 日本の研究予算は削られ、国公立大学の交付金も下がっており、博士課程の人材も減っている。社会保障費が増大する中、未来を担う層に投資できていないのが現状だ。

 「国力に見合った金の使いかたができていない。これを直視せずして我々の未来はない。国家予算の支出面で将来の国の力につながる人材育成、研究開発へのシフトが大事だ。よく未来の話を聞かれるが未来は予測できるものではない。人工生命をコンピューターでシミュレーションすると、初期値と条件が同じでも進化は毎回違う。むしろ我々がどういう将来を目指すかで未来が決まる。未来は目指すものであり創るものなのだ」と語った。そして最後に会場の若者への提言として次のように語った。

 「私がマッキンゼーにいた頃、グローバルな戦略研究グループで企業の成長要因を徹底的に調べたことがある。優れた経営者なのか、素晴らしい戦略なのか、圧倒的な実行力なのか、有望な市場なのか。その結果分かったのは、企業の成長の7割以上が市場で決まるということだ。とにかくトレンドに逆行してはいけない。経済の中心がアジアに移り、あらゆる産業がデータ化されアップデートされるのが真実で、そこにかけるべきだ」