世の中に「好き!」の連鎖をつくる

ファンベースカンパニーへの参画は、ある意味、“必然”だったのかもしれませんね。新会社は具体的にはどのような事業を行うのですか?

津田 現状、世の中にはサブスクの「形」だけ取り入れて満足していたり、あるいは自社サービスに機能的価値しかないと思い込んで情緒的価値の発見をおろそかにしていたりする企業が多いように感じています。そうした企業にファンベースの考え方を注入しながら、一緒に事業を育てていく役割を担いたい。

 主な提供価値としては、①情緒的価値(ファンが愛するツボ)の発見と伸長 ②企業との伴走(ファンベース施策の実行) ③ファンベース施策とマスキャンペーンの調和の3つがあります。ファンベースは手法ではなく考え方なので、いろんなアプローチがあり得ますが、例えばファンミーティングを企画・運営するなど、ファン同士の会話にしっかり耳を傾け、本音を引き出す。そうすることで、自社サービスや製品のファンがどんな人たちなのか、情緒的価値がどこにあるのか、まず把握できるようにします。それをベースにファンとの継続的なかかわり方や施策をデザインしていく。必ずしも新規顧客を獲得するためのマスマーケティングなどを否定しているわけではなく、ちゃんとファンの声を傾聴してツボを分析し、企業の思い込みで押し付けずに共感を得られるような施策を続けるということです。

 同時に、必要に応じて研修なども提供しながら、クライアント企業の従業員も巻き込んでいきます。経営者がファンを大事にしようと音頭を取っていても、社員がどこか自社サービスや製品を信じきれていないケースが多々あります。ネスカフェ アンバサダーでも最初はそうでした。しかし、社員にファンミーティングに参加してもらったり、その模様を撮影したムービーを共有したりするうちに、ファンの熱量が社内にも伝播(でんぱ)していきます。これがファンベースを強力に推進する原動力になります。

 我々は短期プロジェクトをこなすコンサルティング会社でも、広告代理店でもなく、クライアント企業にファンベースが根付き、自走できるようになるまで手助けする「伴走者」です。対象となる業種に限りはありませんが、自治体や街づくり、スポーツ、ITサービスなど、ファンの育成が特に重要なジャンルがメーンになりそうです。

 野村グループが有する経営層の豊富な顧客接点を生かしつつ、アライドアーキテクツの開発力をもってファンと密接にコミュニケーションできるITツールを開発することも視野に入れています。案件によっては、ファイナンスを組み合わせることもあるでしょう。もちろん、クライアント企業のファンに求められるならば、ネスカフェ アンバサダーで培ったeコマースやサブスクのノウハウも活用していきたい。

業種が多岐にわたり、ネスレにとどまるより確かに視野が広がりそうですね。

津田 私はファンベースディレクターという謎の肩書で、現場で汗をかく役割(笑)。いろんな企業や団体のビジネスにかかわるのが、非常に楽しみです。ファンベースカンパニーの事業を通じて各企業、ブランドに紐づくファンを増やしていった先には、それぞれのコミュニティー同士をつなげたり、行き来したりする仕組みもつくりたいと思っています。

 今のように、ある製品やサービスを安いから買う、家にあるから仕方なく使うではなく、好きだから使うという「意思ある消費」を一人ひとりの生活者の中で数珠つなぎに増やしていきたい。ファンベースをあらゆる企業が実践することで社会全体の温度を上げ、「好き!」がもっと多い世の中にする――。これが達成できれば、古巣のネスレ日本への恩返しにもなるはず。そう考えています。

(写真/高山透)