乃木坂46 1期生の高山一実さんが2018年11月28日に発刊したデビュー小説『トラペジウム』は、20万部を超えるヒットとなった。小説執筆に挑戦したのは、熾烈を極めるアイドル競争を勝ち抜く「強み」を身につけるためだ。人気アイドルが抱える苦悩や執筆するうえでの苦労、ヒットの秘訣について聞いた。

高山 一実(たかやま・かずみ)
1994年2月8日生まれ、千葉県南房総市出身。2011年8月に乃木坂46の第1期メンバーオーディションに合格。16年4月より雑誌『ダ・ヴィンチ』にて小説『トラペジウム』の連載開始。乃木坂46から初の小説家デビュー。同連載を18年11月に書籍化。トラペジウムは20万部を超えるヒットとなった

アイドル戦国時代。加えて魅力的なメンバーぞろいの乃木坂46の中で、「高山一実」というキャラクターを確立して、人気メンバーのポジションを築き上げました。その1つとして、小説を強みに据えようと考えた背景を教えてください。

乃木坂46は、まだコンセプトも決まる前から、オーディションを経てメンバーが選ばれたので、皆、探り探りでスタートしました。曲を与えられる前から、いかに自己PRをできるかを求められる。自己PR自体を(ティッシュ配りなどの)コンテンツにして地方を回ることもありました。自分にできることは何だろう、人から興味を持ってもらえることは何だろうと考える日々が続きました。大人数のグループにいると、ポジションや人気の序列が明らかになっていく。その中で、自分に足りないものを考えました。

 他のメンバーは雑誌のモデルなどで活躍していましたが、私は同じ場では戦えないと判断しました。ですので、違う土俵で戦いたいと考え、たどり着いたのが本でした。インタビューなどで本好きを公言してきましたが、グループ内にも別のアイドルグループにもきっと本好きはいる。でも、本を書いているアイドルはいないはず。誰もやったことがないことをしたいと考えて、小説の執筆に挑戦しました。

『トラペジウム』高山一実著/KADOKAWA 1400円(税別)
『トラペジウム』高山一実著/KADOKAWA 1400円(税別)

デビュー作品の『トラペジウム』を執筆することは、自分自身の成長にどんな影響を与えたのでしょうか。

今、振り返ると、私は自分の意見が強く、両親からも頑固と言われ、学校の先生からも通知表で「好きなことには一生懸命取り組むけど、他のことがおろそかになるので視野を広く持ちましょう」と言われることもありました。文書を書くことは得意だとは思いませんが、小説を書く中でそんな自分を見つめ直すきっかけになりました。

 エッセーや自己啓発本とは違い、小説は自分の思うことをただ伝えるのではなく、登場人物の誰に何を言わせるかを考える必要があります。それから、自分の言いたいことだけを一方的に伝えるだけではなく、逆説的なことを言わせるキャラクターも必要だと考えました。トラペジウムの主人公(東ゆう)はもともと目的遂行のためなら、偽りのやさしさを振りかざす悪い子という設定を考えていました。ところが小説を書き進めるうちに、その主人公に救われるキャラクターも現れ始めた。偽りのやさしさでも、救われる人がいる。そんな風に自分の考えを練ることができたので、それによって心が少しだけ、大きくなったかなと思っています。

『トラペジウム』ヒットの理由

トラペジウムは20万部を超えるヒット作となりました。高山さんの考えるヒットの要因は何でしょうか。

私は昔から、とにかくアイドル好き。実際にアイドルになった後も、常にアイドルのことを考えていたぐらいです。そうした中で、私自身の学生時代の記憶が輝いて見えることに気がつきました。アイドルになる前は、アイドルの世界が輝いて見えたのに、いざアイドルになると学生時代に夢に向かっていた自分の方が輝いて見える。

 そうした、真っすぐ何かに向かう姿は人の心を動かすと思いました。その気持ちをうまく表現できたのが(アイドルを題材にした)トラペジウムだと思います。ですが正直、売れてほしいと考えるより、書き終わった段階ですっきりして、一生の内に頭の中にある物語が書店に並ぶことで満足してしまいました。今の結果には驚いています。

小説を書く、あるいはアイドルという仕事をするうえで影響を受けた人物はいますか。

ひとりには絞り切れません。山口百恵さんと、(元モーニング娘。の)道重さゆみさんはアイドルファンでいることの楽しさを教えてくれました。

 今の自分があるのは(小説家の)湊かなえさんのおかげです。本を好きになるきっかけを与えてくれただけではなく、今回の小説を執筆する相談役にもなっていただきました。実はトラペジウムを8割ほど執筆した段階で、すべてを消したくなるスランプに陥ってしまったんです。私が小説を出すことで失態をさらすのではないか、(世の中にとって)プラスに働かないのではないか、そう悩んでしまいました。

 そこで、湊さんに悩みを打ち明けました。すると湊さんから、「全国各地の書店を通じて、実際に会いに来られない人にもメッセージを送れるというすてきなことだから」と声をかけていただきました。その言葉がとてもうれしかった。結果的にスランプを脱することができました。

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