イラストレーターでありアートディレクターでもある、大塚いちお氏。肩書を1つに限定せず、幅広く活躍しているクリエイターだ。代表作の一つ、NHK Eテレで放送中の「みいつけた!」は、番組の企画段階から参加し、「コッシー」や「サボさん」といったキャラクターデザインから、セットや衣装、タイトルロゴなど、番組全体のアートディレクションを担当している。

(写真/中島宏樹)
(写真/中島宏樹)
大塚いちお(おおつか・いちお)氏
イラストレーター・アートディレクター
1968年新潟県上越市生まれ。イラストレーターとして、広告やパッケージ、出版など数多くの仕事をこなし、アートディレクターとして、広告や、テレビ番組全体のデザインに携わる。 担当番組にNHK Eテレ「みいつけた!」など。Jリーグ川崎フロンターレのファミリーアートディレクターとして、 グッズやイベント関係のデザインを担当し、2015年シーズンユニホームをデザイン。NHK連続テレビ小説「半分、青い。」オープニング映像のイラストを担当。そのジャンルを超えた創作活動は、子供から大人まで幅広い層に支持されており、イラストからデザイン、空間、キャラクターや衣装、ユニホームまでこなす多種多様なクリエイションは業界内でも唯一無二の存在である。

 大塚氏は雑誌の表紙やテレビドラマのオープニング映像のイラスト、新聞の連載コラムの挿絵なども手掛ける。イラストのスタイルや技法も1つに限定していないが、洗練されていて、どこか優しさを感じる「大塚いちお」の世界観は共通している。

 もともとイラストレーターとして活動を開始し、アートディレクションも手掛けるようになった。イラストを描くとき、魅力的な絵となるようにタッチや色使い、表現方法など、「頭の中で自らアートディレクションをしている」と大塚氏。番組や広告などのアートディレクションも絵づくりであり、1枚の絵を基に発想するという。写真も1枚の絵と捉え、その絵が映像でこう動いたら面白いとか、描いたキャラクターを立体的な人形にして、こう撮影してみたらどうなるだろうといった具合に、イメージを膨らませていく。「クリエイティブの発想を止めず、より魅力的になる方法を考え続ける。そうやって前に進んできた結果、活動の領域が広がった」。

停留所に置かれた椅子の気持ち

 NHK Eテレの「みいつけた!」のメインキャラクターは椅子だ。一般的にキャラクターといえば、動物や架空の生き物などが多い。椅子というこれまでにない斬新なアイデアが出たとき、大塚氏は発想を止めずに考え続けてみた。そのとき思い浮かんだ絵は、子供の頃に母親とバスに乗ったときに窓から見ていた停留所の風景だったという。

 「田舎の停留所には、誰かの家で要らなくなった家庭用の椅子が置いてある。その多くは、座面が破れていたり、どこか壊れていたりする。どんな天気の日にも椅子はそこにあり、雨の日はずぶぬれになっている。もし椅子がキャラクターになれば、そんな椅子を見た子供たちが『雨の日なのに頑張っているね』『雨にぬれて寂しそうだね』と話すようになるかもしれない。そんなふうに子供たちが見立てられるようになったら、すごく幸せな世の中になるんじゃないかと思った」。大塚氏の温かみのあるイメージが、コッシーという人気キャラクターの誕生につながった。

NHK Eテレで放送中の「みいつけた!」。4歳、5歳、6歳向けの番組づくりの企画段階で大塚氏に相談があったという。キャラクターを考案する1年ほど前からブレストに参加。番組全体のアートディレクションを手掛けている。番組開始は2009年
NHK Eテレで放送中の「みいつけた!」。4歳、5歳、6歳向けの番組づくりの企画段階で大塚氏に相談があったという。キャラクターを考案する1年ほど前からブレストに参加。番組全体のアートディレクションを手掛けている。番組開始は2009年

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