採用、医療、運転などさまざまな場面でAI(人工知能)活用が検討されるにつれて、その倫理観が問われるようになってきた。今、何が課題か、米調査会社のガートナーでデジタル時代における倫理を専門とするフランク・バウテンダイク氏に話を聞いた。

フランク・バウテンダイク氏
米ガートナー ディスティングイッシュト バイス プレジデント アナリスト
ガートナーのデータ/アナリティクス・グループのアナリスト。仕事では主に未来思想家のアプローチを取り、担当領域の最先端をリサーチしている。「デジタル倫理」や「デジタル社会」といったトピックを開拓し、企業がテクノロジーを使用して「正しいこと」を行い、「混乱」を回避できるよう支援している。また、データ/アナリティクスもカバーしている。ガートナーでの職責に加え、英クランフィールド大学スクール・オブ・マネジメントで客員研究員を、ウォーリック・ビジネス・スクールで定期ゲスト講師を務めている

デジタル時代における倫理とはどのような定義になるのか。

倫理というのは、私たちの生活や社会をより良いものにしていくものでなくてはならない。私たちが進化の過程において生み出してきたテクノロジーは、私たち自身が作り出してきたものではあるが、それをどう使っていくのか、ある程度の考え方が必要になってくる。倫理について語られるようになってから人間の歴史は4000年以上たっているが、いまだ非常に曖昧なものだ。テクノロジーが社会にどういう影響をもたらし得るのか、何が善で何が悪なのか、学術的にとどまらない議論が活発にされるようになってきたと感じている。

特にここ数年はAIが話題の中心になってきている。

AIにおける倫理は非常に重要になってくると思う。

 ソーシャルメディアは自然発生的に生まれたため、事前に議論しようとしてももう手遅れの状況になってしまっていた。ビッグデータやプライバシーについても同じことが言えるだろう。

 一方でAIについての倫理の議論というのは今までとは大きく状況が異なり、2つの特徴がある。1つはAIが実際に活用される以前に倫理についての議論がされていること、もう1つが学術的側面の議論だけでなくエンジニアやテクノロジー提供者の間でも議論されているというところだ。

ビジネスの現場での議論で意見が分かれる論点はどんなところか。

一部の課題だけ意見が分かれるのではなく、挙がってくるすべての課題において意見が分かれるのではないかと思っている。

 AIの採用にあたって注意喚起をする人の中には、これから先、5年以内に金融機関において約3割の雇用が喪失されるだろうという人や、ロボットが台頭してくることによって人間が担っていた仕事がすべて失われ、やがて我々の命も失うことになるだろうという人もいる。

 また一方で非常にAIを高く評価する声もある。AIやロボットの採用によって人間性を再定義することができるという人もいれば、ロボットが頭を使わなくていいような仕事をすべてやってくれ、人は哲学者になったり詩を書いたり芸術家になったり、それぞれの領域において特出した専門家になれると答える人もいる。

 しかし、私はどちらの意見も間違っていると思う。

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