代官山 蔦屋書店オリジナルの万年筆が売れている。価格は1本4万円超。ブランド品でもない店舗限定商品としては強気の価格設定。にもかかわらず、複数本購入する人もいるという。もともと万年筆は文具コーナーのメイン商材で、オリジナル万年筆も開店以来9年間、1~2年に1本製作し、今回が5本目となる。
「もともとインバウンド客や遠方から来る方がここでしか買えないものをと購入していたが、コロナ禍でそれが見込めなくなった。しかし店舗限定品はそこでしか買えないので来店動機になる」というのは、代官山 蔦屋書店 文具コンシェルジュの佐久間和子氏。
通常、限定品といえばメーカーが持っている型をベースにするため、ボディーの色、ペン先やリングの模様など、変えられるパーツの中でどれだけオリジナリティーを出せるかが勝負になる。「とはいえ、ただの色違いではつまらない。今回、本来はアピールポイントとなるペン先にあえて何も刻印しなかった。それによって金属本来の柔らかさが伝わり、書き心地も柔らかくなる。また、首軸も通常はグリップと同じ樹脂を使うが、あえて金属に変更して5g程度重くなったことで、重心の位置が前になって書き心地が変わった」(佐久間氏)。
今回は文字の太さが異なる6種類を用意したこともあり、「書き味が面白かったので」と複数本購入するリピーターも出現。さらに書き心地だけでなく、ビジュアル面でもオリジナリティーを追求した。
「透明軸は人気があるが、もう出尽くした感があるため、半透明のすりガラスのようなブラスト加工を施した。これは加工途中で傷ができやすく、ロスが多くなる。コスト的にも割高になるが、今回はやりたいことを全部やり尽くした」(佐久間氏)。
その結果が4万円台という価格。前々回の限定万年筆が2万円台だったことを思うと、勝負に出たことになるだろう。「万年筆には根強いファンがおり、年間にかける予算を決めて購入する一定層がいる。各メーカー、店舗でも限定商品を発売するため、パイを奪い合う形になる。その中で選んでもらえるかどうか」(佐久間氏)。
緊急事態宣言で店舗が休業したときも、佐久間氏はずっとSNSで万年筆の使い方や文具情報を発信し続けた。7月からはインスタライブも開始。来店できない潜在顧客に向け、万年筆の使い方、限定品と通常の万年筆の書き味の比較などを発信することで、ファンの囲い込みを図った。
還暦を迎えた氷室京介関連フェアも
2020年秋に還暦を迎えた氷室京介関連フェアにも注目。9月14日から展示された「『KYOSUKE HIMURO since 1988』Special Gallery」を皮切りに、11月17日まで受け付けた完全受注生産の書籍には、代官山 蔦屋書店限定のブックマークタグや氷室氏の作品を手掛けてきた『作詞家・松井五郎×著者・田家秀樹 ONLINE TALKSHOW』の視聴券を2大特典として用意した。
メモリアルイヤーの20年は、さまざまなイベントが各地で開催されたが、代官山 蔦屋書店では16年から定期的にフェアを開催しており、実績を上げてきた。
「氷室京介の企画を目掛けてやってくるファン層は40代後半から50代の主婦が多く、店舗の客層とは異なる。通常アーティスト系フェアは夜にかけて人が集まることが多いが、氷室ファンが来店するのは平日午前中から夕方までと、行動パターンも違う。普段あまり来ない方々がフェアをきっかけに来てくれるのは大変ありがたい」(代官山 蔦屋書店 外商企画室室長の伊藤辰徳氏)
書籍は完全受注生産だが、過去の実績から“エンジェル”と呼ばれる氷室ファンたちの数も見えており、代官山 蔦屋書店限定特典でどれくらい動くかも予測可能。毎回、通常のアーティストものに比べても反響が大きいといい、当初は代官山だけで開催していたフェアも今では蔦屋書店の他店にも広がっている。
また、同店敷地内にある駐車場を活用して「カーシェアのある暮らし」フェアも開催。同店ではクラシックカーイベントなどを定期的に行うなど、もともと車ファンが集う場所だったが、「ここ数年、クラシックカー、EV車(電気自動車)、カーシェアを3本柱としてきたが、カーシェアを具現化するのが難しかった。うちでやるからには、普通の車を置いても仕方がない」(伊藤氏)と、20年に5周年を迎えたカーシェアアプリ「Anyca(エニカ)」とコラボし、トヨタ自動車のスポーツ車「スープラ」、メルセデス・ベンツのSUV「Gクラス」を用意。この車の試乗を目当てに、自分の車でここまで来て乗り換えて行く人もいるという。当初の想定以上の稼働率で、週末は2台ともほとんど出払っているそうだ。