人間は相手の意図を適切に読み取る力を利用して共同作業をこなすが、AI(人工知能)は同じことができるのだろうか。もし、AIに他者の心を適切に読む能力である「心の理論」を実装できれば、AI同士が適切に協力して作業をこなせるようになるはずだ。今回紹介する研究論文では、AI同士が協調するマルチエージェント強化学習のタスクで心の理論の実装を試みている。

 2012年に深層学習のブレークスルーから始まった第3次AIブームは、今年で10年目を迎える。この10年、飛躍的に進んだAI研究の成果は社会に幅広く実装され、人に代わってAIが作業や処理を行っているタスクが身近で増えていることを実感している人は多いだろう。車の運転や、工場における作業など、一定の危険を伴う作業や、高度な判断力が求められるタスクに関してはいまだ人間が主役である。しかし、AI分野の研究速度を考えると、それらの作業もAIが担う日は近い。

 現代の労働の主役は人間であるため、人間が何らかの作業で協力する相手もまた人間であり、同じ人間同士、相手の意思を読み取りながら適切な共同作業ができる。しかし、将来、人間が現在行っている作業のほとんどをAIが担うことになった場合、AIはAI同士、自分以外のAIの動きを考慮しながら共同作業をこなす必要がある。

 車の運転を例にして考えてみよう。我々人間は、他の車が次にどのように動くのかをほとんど無意識で推論し、例えば交差点で曲がったり、相手に道を譲ったり、減速したりといった操作をこなしている。AIが車を運転する自動運転が普及すれば、車道を走る車はほとんどAIによって操作されているため、車に搭載されたAIは別の車のAIの動きを推論しながら運転することになる。

目の前の車がどんな行動をするか。人間は経験などから推論することができる。写真はイメージ(写真/Shutterstock)
目の前の車がどんな行動をするか。人間は経験などから推論することができる。写真はイメージ(写真/Shutterstock)
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 人間が自分以外の他者の心を推論する能力は認知科学の分野で「心の理論」と呼ばれ、研究の対象となっている。もし、この「心の理論」をAIに実装できれば、AI同士が協調して作業を行うようになった社会において、AI同士の共同作業の質を促進することができるだろう。

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