ディープラーニング(深層学習)研究では国内トップレベルの東京大学・松尾研究室のメンバーが開催する最新論文の輪読会から、話題の論文を紹介する本連載。今回は、直接データを必要としない予測モデル「メタ学習」に関する論文を取り上げる。
AI(人工知能)、特にディープラーニング(深層学習)の研究がここ数年で急速に発展する一方、「AIは幻滅期に入った」と今後の伸びしろに懐疑的な声も上がり始めている。
今までのAI研究が否定されるわけではないとはいえ、私たちAIの研究に携わる者としては次のように感じてしまう。「製品化できたAIは氷山の一角であり、表面的でごく一部にすぎない」「高次元なディープラーニングの利用を考えれば現実的な応用の可能性がさらに見えてくるのに、それを知る人はほとんどいない」。
客観的に見れば、AIを現在のシステムに代わるものとして取り入れたり、ハードウエアに制約がある形で実装したりするのには、ある程度限界がある。AIの使い道を直感的に感じられる人が多くないのは仕方ないのかもしれない。
そもそも、ディープラーニングの将来に懐疑的になる大きな理由の一つとして、データがあればうまく予測したり変換したりできるが、結局データがないと何もできないという解釈がある。
しかし、これはほぼ誤解だ。なぜなら単にデータの入出力関係を記述することを超えた「強化学習」「生成モデル」などのディープラーニングの技法が登場しているからだ。さらに「メタ学習」という、直接データを必要としない予測モデルの研究も進んでいる。
メタ学習は、異なる問題に知識を再利用する高次元的なディープラーニングの利用法だ。汎用的なAIを実現するために重要な研究として大きく注目されている。そこで今回は、このメタ学習について紹介したい。
ディープラーニングは未知の状況下でも威力を発揮する
昨今のAIブームは、ディープラーニングの登場が大きなブレークスルーとなった。猫の画像を見せれば「ネコ」と判別する、「My name is Matsuo」と入力すればネイティブ発音で読み上げる、といったことが可能になった。
これらはよく言われるディープラーニング技術の利用法だが、実際のタスクを考えると、例えば「迷子の猫を探してほしい」場合、探したい猫の画像は数えるほどしか手に入らないかもしれない。「My name is Matsuo」を英国の方言であるコックニーで言ってほしかったとしても、コックニーの発音データがあまり出回っていないかもしれない。「過酷な環境で重い荷物を運ぶ惑星探査ロボットがあったとして、未知の地表面環境でもうまく走れるようにしたい」のかもしれない。
このように、現実的なタスクを想定してみると、データが十分に得られない場合がたくさんあることが分かる。
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