ディープラーニング(深層学習)というAI技術の研究では国内トップレベルの東京大学・松尾豊研究室のメンバーが、実世界で活用できるAIを構築するために参考になる優れた海外の論文を2つ紹介する。現実に存在する身体を通じて環境に適応的な振る舞いを学習することがポイントになる。
AI技術の社会への影響の大きさは計り知れない。50年以上前に「AI=Artificial Intelligence」という言葉が提案されてから、人々はより知的なシステムを構築しようと研究を進めてきた。AI技術は過去2回のブームと冬の時代を経て、現在、20年ぶりのブームが再来している。
今回の冬の時代からのブレークスルーは、データから規則やパターンを抽出して学習を行うマシンラーニング(機械学習)という分野において発生した。中心となった技術は、生物の神経細胞網の構造に着想を得たニューラルネットワークを階層的に重ねたディープラーニング(Deep Learning)だ。
オープンアクセスがAI研究を加速
現在のAI研究はインターネットの発展によって支えられていると言っても過言ではない。論文の「プレプリントサーバー」と呼ばれる「arXiv(アーカイブ)」の出現によって、出版前や会議の開催前に論文が無料で公開されるようになり、業界全体における知識の共有スピードが急速に上がった。さらに、世界中の研究者が「Twitter」や米国最大のソーシャル・ニュース・サイト「reddit」などの掲示板を通じて最新の研究に関して議論をしている。
しかし、毎日のように新しい技術が発表されるマシンラーニング分野の研究者にとって、最新の論文にキャッチアップするコストは非常に高い。そこで、東京大学松尾研究室を中心としたマシンラーニングコミュニティー「deeplearning.jp」では、最新論文の輪読会を毎週開催することによって、参加者間での知識や技術を共有している。
本連載では、この輪読会の内容を一部抜粋してお伝えする。専門家以外の方には分かりにくい言葉が出てくるかもしれないが、そんな人にも最新のAI研究の方向性やスピード感を味わっていただきたい。初回となる今回は、2018年3月末に行われた輪読会から、筆者がAI技術のさらなる飛躍のためにカギとなると考えている2つの論文を紹介する。
「身体性」がこれからのAIのカギ
さて、ディープラーニングの出現によって画像認識や自然言語処理といったさまざまなタスクで大幅な精度向上が見られているAIに関する研究は、どこへ向かっているのだろうか? 1つの方向性は、知能の身体性(embodiment)の見直しだ。身体性とは、知的なシステムが「身体」を持つことによる役割のことである。
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