ステージに立つソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏は、「日本はAI(人工知能)の後進国」と断言した。かつてインターネットやスマホの成長性を見いだし、いち早く事業に取り込んできた同氏は、AIにそれ以上の可能性を感じていると話す。「まだ手遅れではない」と日本の巻き返しに期待をかけた。
ここ数年、ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏が講演をする際の主要トピックは、AI分野に集中している。運用額が10兆円規模のソフトバンク・ビジョン・ファンドも、数多くのAI関連企業に出資する。孫氏はなぜそこまでAIを重視するのか。
その理由が垣間見えたのは、2019年7月18日から開催した法人向けイベント「SoftBank World 2019」の基調講演だった。ソフトバンクが12年より開催している恒例イベント。2日間にわたりソフトバンクの事業に関する講演や展示が披露されたが、やはり最も注目を集めたのは孫氏の講演だった。
AIによる「推論」がビジネスを変える
孫氏がキーワードとして掲げたのは「推論」という言葉だった。飛行機や羅針盤、相対性理論など、これまでの人類の進化を例に挙げ、「人類は色々なものを推論しながら進化してきた」と説明した。その推論の土台になっているのが「データ」だと話す。だがコンピューターやインターネットの登場によって、データ量は30年間で100万倍に増大し、今後も爆発的に増加すると孫氏は見る。そうした膨大なデータから推論するのは、人間には不可能なことだ。AIの力を使って推論することで、人類は一層進化していくと語る。
だが孫氏は、AIに何でもやらせるのは「間違っている」と断言する。最も向いているのは「プリディクション」、つまり予測だという。中国で中古車のオンラインプラットフォームを展開する「Guazi(瓜子)」や、日本にも進出している配車プラットフォーム「DiDi(滴滴)」などの事例を挙げ、AIによる推論で経営の効率化が進み、売り上げを大きく伸ばしていることを説明した。
そうした実績から「25年前にインターネットが始まった頃と同じ、それ以上の興奮をもってAI革命の入り口にいる。全速力でAIに取り組む」(孫氏)と意気込みを見せる。さらに、ソフトバンク・ビジョン・ファンドを通じ、AIを活用して世界、あるいは特定の国や地域でナンバーワンの存在でありながら、未上場であるユニコーン企業への積極投資を進めていると話した。その規模は2年間で80社に上る。
インド発の格安ホテルが世界2位に
講演にはそうした出資先企業の代表者も登壇した。19年4月にヤフーとの合弁で日本進出を果たした、インド発の格安ホテル運営会社OYO(オヨ)ホテルズアンドホームズの創業者兼CEOであるリテシュ・アガルワル氏は、1億を超えるデータをAIによって分析。需要を予測し、5日以内に物件の契約を済ませることで、創業6年目ながら米ホテル大手マリオット・インターナショナルに次ぐ世界2位のホテルチェーンにまで上り詰めたと説明した。
さらにOYOでは、AIを活用することで客室のデザインや家具のレイアウトを決める、需要を予測して価格をダイナミックに調整するなどして、顧客の満足度を高めながらも、業績を大幅に伸ばしている。
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