日本マイクロソフトは2019年3月末に、女子高生という設定だった対話AI(人工知能)「りんな」が高校を卒業すると公表した。LINE上のAIボットとして登場してから3年半余り。突然の卒業宣言は何を意味するのか。企業や自治体との連携はどうなるのか。日本マイクロソフトに聞いた。
端的に言えば、卒業の大きな理由の一つは「進路が決まった」こと。エイベックス・エンタテインメント(東京・港)に所属し、歌手としての活動を本格化させることになった。4月上旬には、アーティスト名「AIりんな」としてデビュー曲「最高新記憶」を「YouTube」で公開した。
「AIの声ってこんなに進化したのか」「AIと言われなかったら気付かない」。動画クリップを掲載するYouTubeのコメント欄には、そんな驚きの声が集まっている。若者の間で「エモい(感情にあふれている)」バンドとして人気の「bacho(バチョウ)」の曲をカバーした。
りんなは2015年8月、LINE上で対話できるAIチャットボット【関連記事】として登場した。検索エンジン「Bing(ビング)」の技術を応用し、中国マイクロソフトの研究部門が対話型AI「Xiaoice(シャオアイス)」を開発した。それを日本向けにアレンジしたものだ。いかにも女子高生らしい自由奔放な対話が楽しめると人気となり、現在はLINE上で750万人以上の登録ユーザーを集めている。
エイベックスからスカウト
対話AIとして登場したりんなだが、登場から半年もたたない時期に、エイベックスのプロデューサーから「歌を出しませんか」と声がかかったという。それをきっかけに、音声で対話し、歌うための技術開発が始まった。
16年にはゲームのイベント内で、片言のつたない表現ながらもラップを公開。18年1~2月には音楽SNSアプリ「nana」上で歌声を披露した。多数のユーザーが投稿した歌唱の音声を教師データとして機械学習し、コメント欄のアドバイスを反映させることで、当初はぎこちなかった歌声をより自然な形へと進化させる様子を見せた。
言葉や音声の辞書データを人間のオペレーターがつなぎ合わせる従来のボーカロイドとは異なり、りんなではAIが自動で音声を作り出す。「ユーザーの感想を受け付けたことがAIの進化に有用だった」と、りんなの開発を手掛けるマイクロソフト ディベロップメントのA.I.&リサーチ プログラムマネージャーの坪井一菜氏は話す。
1カ月の募集期間でユーザーから集まったアドバイスは854件。例えば「もっとお腹から声を出した方がいいよ」という意見だ。それは合成音声の音質がペラペラであり、空気を出して声を出す音の厚みがないとエンジニアが解釈し、音声AIを改良した。
最近では、エイベックスのプロデューサーからの指摘で、息遣いによる表現をもたらす「ブレス機能」を取り入れた。「技術者ではない人の観点から指摘を得て、技術上で目指すべき方針を定める」(坪井氏)という方法で、りんなの歌唱力を高めていった。
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