@Yam_eye・2011年08月19日 素材に対する感覚って、作り方の感触をともなってなければ、ホンモノじゃないと思う。少なくとも、ものづくりのプロはその質感が生まれる瞬間を、ただ知識としてではなく「体感」してないと、うまく使えない。

山中俊治デザイン・九代目玉屋庄兵衛作「弓曳き小早船」のデザインスケッチ。江戸座敷からくりの最高傑作といわれる「弓曳き童子」のリデザイン
山中俊治デザイン・九代目玉屋庄兵衛作「弓曳き小早船」のデザインスケッチ。江戸座敷からくりの最高傑作といわれる「弓曳き童子」のリデザイン

 「ゴッドハンド」とか「神の手」とかという言葉をときどき目にする。画家、工芸家、漫画家、外科医、美容師、空手家など、優れた手技を持つ人々に対して尊敬の意味を込めて使われるようだ。しかし実は、私はこの言葉に少し違和感を覚える。幸いにして、実際にそのように呼ばれる義肢装具士やからくり人形師などの方々とかなりの時間を共にする機会には恵まれた。その経験を通じて思うことは、本当にその人たちが神的であるのは、はたして「手」だろうかという疑問だ。

 からくり人形師の九代目玉屋庄兵衛は、「神の手」と呼ばれる1人である。玉屋氏はそもそも右手だけでなく巧みに左手や足も使うが、そうした身体能力だけで彼を語ることは難しい。素材や構造に関する知識もすごいが、それ以上に私が驚いたのは、現代のロボットのお手本といわれるような複雑なからくりを、図面を使わずに製作してしまうことだった。彼には初めから構造も力も材料強度も見えているのだろう。さらにはどのような順序、段取りで製作するかについても迷いがない。結果として1体のからくり人形を、素材を切り出すところから製作するのに3カ月ほどしかかからない。「気候が変わると素材の性質も変わってしまうので一気に作るんですよ」と彼はこともなげに言う。そうした能力が宿るのは「手」なのだろうか。

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