@Yam_eye・2018年11月12日 産業革命のころ、粗悪な日常品が市場にあふれていると嘆く工芸家はたくさんいた。だがやがてその製造技術こそが、新しい「美」の原動力なのだと気づいた人たちが、モダンデザインの源流になった。新技術はいつも粗悪なものを大量に生み出す。しかしそれは、未来の美意識の芽生えでもある。

山中研究室の作品Ready to Flyの内部構造。カムとテコ棒で多数の糸を同時に操作する伝統的な「からくり人形」の手法を3Dプリンターにより復活させた。機構設計は博士課程学生の杉原寛
山中研究室の作品Ready to Flyの内部構造。カムとテコ棒で多数の糸を同時に操作する伝統的な「からくり人形」の手法を3Dプリンターにより復活させた。機構設計は博士課程学生の杉原寛

 「産業革命による粗悪な量産品の普及を嘆いたウィリアム・モリスらは、工芸の復活を目指してアーツ・アンド・クラフツ運動を起こした」とは、美術の教科書にもおなじみの一節である。しかし、そこで言われる「粗悪なもの」がどのようなものであったのかに関する記述は案外少ない。

 J.U.Nef(経済史学者、1899–1988、米国)によれば、その「粗悪なもの」の代表例の一つが、産業革命初期に英国で量産された瓶や窓に使われるガラス製品であったという。

 16世紀、フランスやイタリアではベネチアングラスに代表されるような、吹きガラスをベースとするガラス工芸が主に貴族に向けて大いに発展を遂げた。一方、同じ頃の英国では、粘土の型を用いた量産技術が確立したため、石炭を燃料とする中産階級向けの瓶や窓ガラスが大量に出回るようになった。新技術がもたらしたガラス製品は十分に高機能であり、何よりも安く、英国の中産階級の家々に快適性をもたらした。しかし、石炭の燃焼ガスはいわゆる吹きガラスには適さなかったため、英国の伝統的なガラス職人たちは職を失っていったという。

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