@Yam_eye・2022年04月03日 4月1日付けで愛媛県総合科学博物館の名誉館長を務めることになりました。2020年に亡くなった初代館長、有馬朗人(元東大総長)さんの後任になります。愛媛県新居浜市の別子銅山産業遺産群の麓にある黒川紀章さんの壮大な建築物です。
パリのシテ島からパリ東駅に向かって北上する途中に、パリ工芸博物館(musée des Arts et Métiers)がある。もともとは修道院だったという歴史的建造物の中に様々な技術遺産、産業遺産が10万点近く展示されている。館内の中央階段の吹き抜けには、巨大なコウモリのようなオブジェがぶら下がっている。クレマン・アデールが1897年に製作した蒸気機関飛行機AvionⅢ号である。アデールにとっての飛行機械の初号機に当たるAvion(通称Éole)は、ライト兄弟のライトフライヤー号より13年も前に自力で離陸し、高度数十センチ、距離約50メートルを飛行したという。3号機の性能については軍事機密とされたために記録が残っていないが、アデールの功績は高く評価され、「航空」を意味するaviationやavionicsなどの言葉はこの飛行機の名前に由来するそうだ。
AvionⅢが印象的なのは、なんと言ってもその形状である。コウモリをはじめとする生命感のある形状や構造が様々なスケールで引用されていて、うっとりするほど美しい。一方で数年後に、膨大な試作実験と綿密な構造設計に基づいてデザインされたライトフライヤー号は、ほとんど生物的な引用を感じさせない、近代的な超軽量ボックスという印象である。両者を比較すると、なかなか生物の美しさから離れられないデザイナーと、工学的な合理性に基づいたシンプルな構造を設計する技術者の葛藤という、現代的なテーマが見て取れる。博物館はデザインを、そしてその成り立ちを学ぶ場所でもある。
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