@Yam_eye・2020年04月16日 アイデアのほとんどは、情報の尋常でない接続から生まれる。つまり偶然の産物に近い。だから多くのクリエイターはそのような機会を増やすべく、未知の場所に出かけ、見知らぬ人に出会い、予定にない行動を起こしてみる。それに比べるとオンラインの出会いは、あまりに予定され過ぎている。

2015年に修士学生だった杉原寛君との雑談中に描いた何か。後にBBCワールドニュースにも取り上げられた3Dプリンタロボット「Ready to Crawl」に発展した
2015年に修士学生だった杉原寛君との雑談中に描いた何か。後にBBCワールドニュースにも取り上げられた3Dプリンタロボット「Ready to Crawl」に発展した

 一昨年までは日常的に、ふらりと研究室に立ち寄るのが常だった。制作中であったり談笑中であったりする学生たちと、誰かのお土産などをついばみながら話していくうちに、ふと新しいアイデアに出合うことも珍しくなかった。「最近、〇〇が気になるんですよね」「へえ、面白いな、それ」……みたいな会話から、いつの間にかアイデアらしきものが生まれた。時にはその場でスケッチブックを取り出して、構造を議論したり、どう作るかを検討したりもした。実際、私たちが世の中に発表したプロトタイプの幾つかは、そういう雑談の中で生じた着想がもとになったものである。

 アイデアは偶然の産物だと思う。目的意識を明快にしないまま様々な情報に接し、思考を巡らせていると時折、脳内の情報につなぎ間違いが起こる。それを言葉や絵にして人に伝えてみると、(大半は愚にもつかないものだが)ごく稀(まれ)に有用な組み合わせが見つかる。それを注意深くすくい上げて育てていくと、時として優れたアイデアと呼ばれるものに成長する。

 あらゆるアイデアメーキングのノウハウは大ざっぱに言えば、このつなぎ間違いを誘発する方法と、その中から有用なものを拾い上げる方法の2つに集約される。つまりは、確率を上げる方法にすぎず、生まれる瞬間だけを見れば、アイデアは依然として僥倖(ぎょうこう)としか言いようがない。優れたクリエイターたちに成功の秘訣を聞くと、しばしば「運が良かっただけです」という答えが返ってくるが、あれは一概に謙遜ではない。アイデア生成を生業としている人間の実感なのである。

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