ついに、政府が「拡大集中許諾(ECL)」の本格検討に入る。情報社会が進展し、過去の膨大なコンテンツの再活用の可能性は高まった。また、一億総発信時代では、「UGC(ユーザー・ジェネレーテッド・コンテンツ=ユーザー生成コンテンツ)」が時代の主流に躍り出ている。その活用の前に立ちはだかるのは、コンテンツの数だけ爆発的に増大した著作権などの「権利」の処理だ。この権利処理の容易化にとって切り札になるという、拡大集中許諾とは何か。福井健策弁護士に聞いた。

(写真/Shuterstock)
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Q1 なんだかJASRACが増えるんですか?

A1 なんでそういう障りのある言い方を……。まあ分かりやすい例えだが、JASRAC(日本音楽著作権協会)ではなくて、「権利の集中管理団体」と言う。これは音楽分野にもNexToneというJASRACのライバルのような会社はあるし、文芸や美術など、他の分野にもある。

Q2 権利をなんで集中管理するんですか?

A2 20世紀以降、市民社会とメディアの発達でコンテンツの流通量は莫大に増えたね? これはコンテンツ産業を巨大ビジネスに押し上げると同時に、社会の至るところでその無断利用も発生させたんだ。そこで無断利用を抑止できる制度、つまり「知的財産権」の役割が高まり、逆に言えばどう効率よく、利用希望者に許可を与えて対価を集めるかが課題になった。

Q3 ああ、使う側からしても権利者を探し出して許可をもらうのは大変ですよね。この仕事をしてると、時々、「やってられるか」という気になります。

A3 例えば映像だ。番組や動画のような映像自体も著作物だが、そこには同時に、脚本、音楽、出演者、もちろん映像中に登場する資料や作品など、実に様々な要素が含まれる。特に音楽は作詞作曲には著作権、さらに既存の音源を使うときにはいわゆる原盤権という別な権利も働く。これが曲ごとに異なるのだから、1つの動画で20人の権利者がいるなんて、ざらなのだ。原則論としては、その全部のクリエイターや遺族を探し出し、利用の許可をもらわないと一般への配信などはできない。

Q4 今、動画ってすごく多いですよね。

A4 「歌ってみた/踊ってみた」、ゲーム実況、無数のライブ配信……。動画に限らず、既存の作品を活用した二次創作はネット社会の主役だ。いわゆるUGCだね。二次創作自体が様々な権利の問題の宝庫なのだが、その再活用も大変だ。普通の番組や映画以上に、権利者とは連絡が取りにくい。そもそも匿名で、権利者が誰か分からないケースも多い。

Q5 いや、権利者に連絡して許可をもらうだけでも大変なのに? 権利者が分からなかったら、ますます許可の取りようがないですね。

A5 そこで権利の「集中管理」への期待だ。例えば、JASRACは全世界のプロの楽曲のほとんどについて集中的に利用許可を与えている。料金は規程があって、申請すればほぼ自動的に許可が出る。これは使う側からすれば非常に楽であることは間違いない。また、創作者の多くは自分の作品は活用してもらいたい。権利の管理と許可作業を誰かに委ねて使用料を分配してもらえるなら、歓迎の場合も多いんだ。

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