女性アスリートの競技中のテレビ映像から、無断で画像をキャプチャーして淫らな言葉とともにアダルトサイトに投稿したとして、自営業の男性が警視庁に逮捕された。容疑はテレビ局に対する著作権侵害(その後、60万円の略式命令との報道)。また、日本オリンピック委員会(JOC)はこれに先駆けて2020年11月に声明を発表し、「アスリートの盗撮、写真・動画の悪用、悪質なSNS投稿は卑劣な行為です。」と訴えた。同時に開設された情報提供フォームには約1000件の被害情報が寄せられたという。果たしてアスリートの撮影と投稿はどこまで許されるのか? 福井健策弁護士に聞いた。
Q1 アスリートの撮影は駄目なんですか? 僕、全然知らなくて、子供の頃から野球やサッカーの試合で選手を撮ってたんです……あれは、犯罪?(ガクガクブルブル)
A1 それじゃ全国民が犯罪者だな。いやいや、そんなことはない。
まず、スポーツの試合というものは普通は著作物ではないので、著作権の問題はない。すると選手の「肖像権」の問題になる。これも、無断で撮影したり投稿したりしたらすべて肖像権の侵害なんてことは裁判所は言っていなくて、いわば「程度問題」だという話は以前にしたね?(過去記事参照)
公開のスポーツ競技における選手の場合、特に個人をアップにしない一般的な競技の様子を個人の思い出のために撮影したりSNSに投稿したりする程度であれば、恐らく肖像権の侵害には当たらない可能性は高いだろう。この辺り、私も加わったデジタルアーカイブ学会の肖像権ガイドラインというものが公開されているので、一つの指針として参考にはなる。
・デジタルアーカイブ学会の肖像権ガイドライン
Q2 でも、競技会場によっては撮影禁止になっているところもありますよね?
A2 うん、この場合には撮影禁止という条件を了解して観客が入場しているなら、恐らく主催者と観客との間にはそういう契約合意がある。すると、肖像権の侵害にはならなくても、無断撮影自体が「契約違反」という可能性はある。逆に言えば、そういう縛りがない場合には、撮影・投稿は特に違法ではない場合も多いのだ。
ただ、例えば写真を営利目的で投稿する場合や、普通の選手なら公開を望まないような姿の画像を公開する場合には、肖像権侵害の可能性がそれだけ上がってくる。特にプロのスポーツ選手などには「パブリシティー権」という肖像権から生まれた別な権利もあり、例えば実質的に画像を見せることで収益を上げるサイトへのアップは、このパブリシティー権の侵害に当たる可能性も高くなる。
Q3 じゃあ今回は営利目的だから逮捕されたんですか?
A3 いや、それも違って、今回は著作権侵害なのだ。
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