様々なプロジェクトの企画でいつも直面する、「人のアイデアはどこまで借りていいか」という悩み。最近、現代アート作品を巡って注目の判決があった。電話ボックスを水槽に見立てて中に金魚を泳がせる作品について、これと似た「金魚電話ボックス」の作品を違法とするか否かで、地裁と高裁の判断が分かれたのだ。果たして、人のアイデアのパクリはどこまで許されるのか? 福井健策弁護士に聞いた。

左:原告となった山本伸樹氏の作品「メッセージ」。右:被告となった柳町商店街「金魚電話ボックス」(ならまち通信社 https://narapress.jp/message/ より)
左:原告となった山本伸樹氏の作品「メッセージ」。右:被告となった柳町商店街「金魚電話ボックス」(ならまち通信社 https://narapress.jp/message/ より)

Q1 金魚と電話ボックスがもめてるんですか?

A1 全然違う。ご覧のように電話ボックスに水をためて金魚を泳がせる作品を、奈良県のある商店街が展示していたところ、現代アート作家の山本伸樹さんが、先行するご自身の作品に対する著作権侵害だと訴えたのだ。

 といっても、2つの作品が偶然似た場合には、どんなに似ていても著作権侵害は成立しない。しかし、このケースでは、商店街側は少なくとも間接的には山本さんの作品を知っていたと認定されている。両者の間では、解決に向けてかなり長い協議もあったらしい。

Q2 うん、これはソックリじゃないですか。偶然似たならともかく、知っていたならもうダメでしょ。ダメダメ。

A2 そうか? 著作権侵害だとすると、全世界的にだいたい100年は、この程度似ている作品は作れないことになる。山本さんや、亡くなった後はそのご遺族の了解がないと、誰も作れないし飾れないことになるのだが。

 では、どの程度までダメなんだろう。例えばこれで、商店街側の電話ボックスがもっとポップな色彩で塗られていて、中で泳いでるのが色とりどりの熱帯魚だったらセーフだろうか? 電話ボックスの水槽の中に、人魚にふんした女性が入っている作品はどうか? 中から話しかけてくれたりして……。

Q3 それ買います。どこに売ってるんですか?

A3 いや、ないよ、そんなの。思いついただけだ。逆に電話ボックス以外のありとあらゆるものに金魚を入れるというアイデアはどうだろう。古いテレビのブラウン管の中に金魚とか、冷蔵庫や洗濯機が透明な水槽で、そこに金魚が入ってるとか……。

Q4 なるほど。セーフとアウトの境目は微妙そうですね。

A4 現代アートは、ある種アイデア勝負みたいなところがある。だから作品の盗作論争と言いつつ、「アイデアの借用はどこまで自由か」という体裁になることが多いんだ。例えば現代アートの父、マルセル・デュシャンは1世紀前に、既存の男性用便器に偽造の作家名を署名してただ置いただけの「泉」という作品を発表し、その後の現代アートの扉を開いた。「レディ・メイド」といわれる手法だね。「既製品の作品化」というアイデアの借用が丸ごとダメだと言われたら、その後の現代アートの大物たちのかなりの部分はアウトになりかねない。

マルセル・デュシャンの作品「泉」
マルセル・デュシャンの作品「泉」

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