2021年1月12日、ソフトバンクは、楽天モバイル(東京・世田谷)に転職した元従業員が営業秘密に該当するネットワーク技術に関する情報を不正に持ち出し、逮捕されたと発表した。今回は、秘密情報の流出に関わる法的な問題について弁護士の二木康晴氏に聞いた。

企業の重要情報が従業員による持ち出しなどで流出するケースは少なくない(写真/Shutterstock)
企業の重要情報が従業員による持ち出しなどで流出するケースは少なくない(写真/Shutterstock)

Q1 どのような情報がどういう経緯で持ち出されたのか。

A1 ソフトバンクの発表によれば、元従業員は在籍中、ネットワークの構築に関わる業務に従事しており、4Gおよび5Gネットワーク用の基地局設備や、基地局同士の固定通信網に関する技術情報を不正に持ち出したとのことである。各種報道によれば、元従業員が出勤最終日に社内サーバーに接続し、メールの添付ファイルとして自分自身が設定していたメールアドレスにデータを送信していた、とのことである。

Q2 今後、どのようなことが考えられるか。

A2 今回の件が、不正競争防止法に定める「不正競争」に該当する場合、ソフトバンクは、侵害の停止または予防を請求することができる(不正競争防止法3条1項)。また、侵害行為によって生じた物の廃棄を請求することもできるが(不正競争防止法3条2項)、もし今回不正取得された営業秘密に基づいて建設された基地局などがある場合、どこまでの請求が認められるかなども問題となるかもしれない。なお、営業秘密は、その取得自体に関与していなかったとしても、不正取得されたことを知った後には、使用することはできない(不正競争防止法2条1項)。

Q3 元従業員を通じた情報流出というケースはよく見られるのか。

A3 ソフトバンクでは2020年にも、元従業員がロシアの元外交官から報酬を得る目的で営業秘密を不正に取得していたとして、不正競争防止法違反の有罪判決を受けている事件がある。

 また、国境をまたいで大きく問題となった産業スパイ事件も過去にいくつかある。

 12年に新日鉄住金(現日本製鉄)が、「方向性電磁鋼板」の製造技術を元従業員が持ち出したとして韓国のPOSCOを不正競争防止法に基づき訴えている(その後、POSCOが2990億ウォン[約300億円]を支払うことで和解)。また、14年に東芝が、提携企業である米サンディスクの元技術者がNAND型フラッシュメモリーの製造に関わる技術を持ち出したとして、韓国のSKハイニックスを不正競争防止法に基づき訴えた事件(その後、SKハイニックスが2億7800万ドル[約330億円、当時の1ドル=約118円で換算]を支払うことで和解)などがある。

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