2020年12月7日、世界の音楽ファンの間をニュースが駆け抜けた。ボブ・ディランが、彼にノーベル文学賞をもたらした全曲の著作権をユニバーサルに売却したというのだ。その数、実に600曲。売却価格は300億円を超えるとされ、個人のソングライターとしては史上最大規模となる。これで、ディランは自分の歌を歌えなくなるのか? 音楽の著作権を譲渡すると何が起きるのか、音楽ビジネスに詳しい福井健策弁護士に聞いた。

(写真/Shutterstock)
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Q1 ディランが全曲の著作権を譲渡しちゃったら、一体どうなるのですか?

A1 結論から言うと、恐らくすぐにはたいして変わらない。

Q2 いや、それじゃQ&Aになりません。え? 著作権を他人にあげちゃったら大変でしょう?

A2 うん、この機会に音楽著作権の基本について簡単にレクチャーしよう。

 確かに、これがゲームとかマンガといった他の分野だったら、作品の著作権を他社に譲渡するということは決定的だ。以後は、その作品をどう事業展開しようが塩漬けにしようが、相手先の自由であって、自らは使うことすらできなくなる。

 ただ、音楽はちょっと特殊で、作詞家・作曲家といったソングライターはもともと、自分の著作権を音楽出版社という専門の会社に譲渡しているのが通常だ。これは音楽著作権を管理し展開することを専門とする会社なのだが、通常はさらにそこから、集中管理団体といわれる団体に曲の管理の大半を委託するのだ。日本でいえばJASRAC(日本音楽著作権協会)やNexToneがこれに当たる。

Q3 ああ、JASRACね。

A3 知ったような顔をするな。同様の管理団体は世界中に存在する。米国ならASCAPやSESAC、英国ならPRS、ドイツならGEMAという具合だ。管理の仕方や対象は国によって少しずつ違うのだが、例えば誰かがコンサートで曲を演奏するとか、曲を放送するといった典型的な利用は、誰でもこういう団体に申請し、決められた使用料を払えば自由に行える。

Q4 つまり、これまでもディランの曲を演奏したり放送したりする権利の窓口はこうした団体だったと?

A4 その通り。仮に曲の著作権がユニバーサル・ミュージック系の音楽出版社に移っても、その点は変わらないのだ。もちろん、ディラン自身だってこれからも歌える。

 ただ、これまでは著作権の利用収入、つまり「印税」は、こうした管理団体の取り分を除いてディラン側に渡っていたのが、当然ながらこれからはユニバーサルの収入になる。つまり、ディランは一時収入を得た代わりに、将来の収入はなくなる。

Q5 そうなんですか。じゃあ曲の利用という点では、何も影響はないのですか?

A5 実はそうでもなくて、これまでディランの了解がないとできなかった利用というのがあるのだ。それは「CM」「シンクロ」「訳詞」などだ。

 これもある程度、国によって異なるのだが、曲をCMに使ったり、シンクロといって映像音楽として使ったり、それから訳詞にしたりするのは通常は管理団体の一存では許可を出せなくて、音楽出版社やディラン自身の判断事項だったのだ。そのためには個別の交渉が必要になって、通常、対価は単なる曲の演奏や放送と比べると格段に高くなる。

 ディランとユニバーサルとの契約条件次第ではあるが、この部分は今後、ユニバーサルが自由に決定できるようになる可能性が高いだろう。当然ながらユニバーサルとしては、権利の購入に要した対価を取り戻すべく、積極的な展開を図っていくはずだ。