新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、テレワークを導入する企業が急増した。しかし、突発的なテレワークの導入に対応するため、従業員に私物の端末などを使って仕事を行わせる会社も多い。また、従業員のテレワークのための費用負担を減らすために、従業員に手当として一定額を支給して対応する会社もある。そこで、テレワークで発生する費用の負担について、フランテック法律事務所代表の金井高志弁護士に聞いた。
従業員のテレワークにかかる費用は原則、会社が負担
Q1 従業員によるテレワークにかかる費用の負担については、法律上、どのように定められているのか?
A1 新型コロナウイルスの感染拡大の中で、テレワーク手当、モバイルワーク手当、リモートワーク手当などの名称で一定額の手当を支給し、テレワークにかかる費用を負担する会社が話題になった。しかし、それらの手当の内容については、各社さまざまである。通信環境の整備や必要備品の購入を支援するための一時金として手当の支払いをし、そして、月々の通信費や光熱費を支援するための継続的な費用負担としても手当を支払う会社、あるいは後者の継続的な手当のみを支払う会社などがある。
そもそも労働基準法では、業務上発生する費用の負担について定められ、就業規則において規定すべき内容が定められている。業務上発生する費用の負担について、労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる場合においては、これに関する事項を就業規則に定めなければならないと定められている(第89条第1項)。すなわち、業務上発生する費用は、原則として会社が負担しなければならず、例外的に従業員に負担させる場合には、それを就業規則に定めなければならないこととなっている。
これは、自宅で業務を行うテレワークでも変わらない。テレワークで発生する費用も会社が負担するのが原則であり、従業員に負担させるには、それを就業規則やテレワーク規程に定めなければならない。
突発的な導入で、テレワークにかかる費用を自己負担する従業員が急増
Q2 テレワークの中で従業員はどのような費用を負担しているのか?
A2 テレワークで発生する費用でまず思い浮かぶのは、パソコンやスマートフォンなどの情報通信機器に関連する費用だろう。職場では情報通信機器は用意されており、情報通信機器に関連する費用は当然、会社負担になっている。またテレワークに限らず、会社が支給する情報通信機器を使用する場合も、その費用や通信回線費は会社負担になっている。
他方、コロナ禍で突発的に始まったテレワークでは、多くの場合、従業員が私物の情報通信機器を使用して仕事をすることとなった(このような私物の情報通信機器を業務に利用することは、BYOD[Bring Your Own Device]と呼ばれる)。この場合、従業員が業務で発生する費用を自己負担せざるを得なかったことも多かったはずである。
まず、情報通信機器に関連する費用は、(1)情報通信機器そのものに関する費用と(2)情報通信機器を使用するために必要な通信回線費用の2つに大別できる。
この(1)情報通信機器そのものに関する費用は、(i)情報通信機器の本体費用などの購入費と(ii)アプリのライセンス料などの「利用の継続費用」や情報通信機器の「修理費用」といった情報通信機器を継続的に利用するための維持費に分けられる。業務で私物を使用する場合(BYODの場合)には、従業員が既に所有している、または新たに購入する情報通信機器を使用することになるため、機器代金の負担は従業員になる。さらに維持費についても、従業員の負担になりやすい。
また、(2)通信回線費用に関し、テレワークの場合、既に自宅に設置されているインターネット回線や従業員名義で契約をしているWi-Fiなどを使用することが多い。そのため、(i)通信設備の開設や通信サービス契約の締結費用といった初期費用は従業員が負担していることになる。他方で、(ii)通信回線の利用料といった継続的費用については、私用と業務用の双方のために共用して切り分けが難しいことから、その費用負担の取り扱いが問題になる。
テレワークでは、文具、備品、宅配便などの費用、水道光熱費、仕事場所の賃料の負担の問題も発生する。文具、備品、宅配便などの費用については、領収書などで支出額が明確になるため、実費精算で会社が負担する必要がある。しかし、水道光熱費については、自宅の日常の私用での使用分と業務での使用分との区別が難しいため、その費用負担の取り扱いが問題になりやすい。
また、自宅環境の問題により自宅で仕事ができない場合には、コワーキングスペースなどの施設を利用する必要も出てくる。そのため、この費用を会社が負担するかどうかも問題になる。他方で、テレワークにより従業員の通勤がなくなるため、通勤交通費については、定期券購入費用ではなく、実際に通勤をした際の費用を実費精算で会社が負担すればよいことになる。
正確な費用算定の難しさから一定額の手当を支給する会社が増加
Q3 私用と業務用で切り分けが難しい費用については、会社と従業員でどのように負担すべきなのか。
A3 私用と業務用で切り分けができる費用については、実費精算で会社負担とする必要がある。また、切り分けができる費用か否かにかかわらず、就業規則に規定すればすべてを従業員負担にすることはできるが、従業員の負担が大きくなるため、現実的な対応ではない。
私用と業務用の費用の金額について切り分けができない以上、従業員が実際に負担している費用を算出できないことから、一定額を従業員に支給する会社もある。しかし、この場合にも注意が必要である。会社が一部でも費用を負担していれば問題がないように思われるかもしれないが、一定額を支給していたとしても、それを超える費用を従業員が負担していれば、従業員は業務のための費用を負担していることになってしまう。このような場合、会社が従業員に対して支給する額を超える部分は、従業員に負担させることを就業規則やテレワーク規程に定める必要がある。
Q4 会社がテレワークに関する手当を一定額で支給する場合、就業規則(テレワーク規程)をどのように変更する必要があるのか?
A4 通信費用や水道光熱費について、会社が従業員に対して一定額を支給し、それを超える部分を従業員に負担させる場合には、厚生労働省が作成する「テレワークモデル就業規則~作成の手引き~」の通り、次のように就業規則やテレワーク勤務規程に定める方法が考えられる。
第○条 在宅勤務者が負担する自宅の水道光熱費及び通信費用(ただし、資料送付に要する郵便代は除く。)のうち業務負担分として毎月月額○○○○円を支給する。
ただ、本来的には、業務で必要になる費用はすべて会社が負担することが望ましい。そのため、例えば従業員に、テレワークをしていなかったときとテレワークを導入したときの通信費用や水道光熱費などを比較させて、テレワークをしたことで増えた通信費用や水道光熱費などを算出してもらい、1年間のテレワークの実績からテレワークを導入したことで増えた費用を、アンケートなどの手段により従業員に確認してみることが考えられる。そのような調査などのうえで、具体的な金額を算定し、できるだけ従業員に自己負担分が発生しないよう、全社的な定額の支給額を定めることが望ましいと思われる。