イベントビジネスが危機にひんしている。新型コロナウイルスの感染拡大の中、全国でイベントの中止・延期が雪崩を打っているためだ。イベントの中止・延期の場合、チケット代や参加料の払い戻しは必要か? ライブイベントの法律問題に詳しい、福井健策弁護士に急きょ尋ねた。

日本各地で主要イベントの中止・延期が。Jリーグも3月15日まで94試合を中止・延期すると発表。写真はYBCルヴァン杯の名古屋―清水戦延期を伝えるお知らせが張られたパロマ瑞穂スタジアム(名古屋)(写真/共同通信)
日本各地で主要イベントの中止・延期が。Jリーグも3月15日まで94試合を中止・延期すると発表。写真はYBCルヴァン杯の名古屋―清水戦延期を伝えるお知らせが張られたパロマ瑞穂スタジアム(名古屋)(写真/共同通信)

 日本のエンターテインメント界をけん引してきたコンサートやスポーツの中止・延期が相次いでいる(中止・延期となったイベントの一覧)。他方、早々に中止を決定した東京マラソンは、参加料を参加者に払い戻さないと発表し、激しい賛否を呼んだ。チケット代や参加料の払い戻し、さらにはスタッフや出演者へのギャラは支払われるのか?

Q1 先生、私の行くはずだったコンサートや、参加予定だったセミナーも続々中止になっています! 中止になったイベントでは、参加料やチケット代は払い戻されるのでしょうか?

A1 落ち着きなさい。今、あなたよりもっと大変な思いをしている人々はたくさんいるのです。法的には、これは2段階で考える。まずは観客や参加者が同意するチケット規約や参加規約に、中止に関する有効な条項があるかだ。

 もっとも、HPのどこかに小さく書いてあったとか、チケットを購入したら裏面に記載があったというのでは、契約合意とは言えない。他方、ちゃんと見やすく規約が表示されて同意クリックをしたような場合には、有効な合意があったと言えるだろう。そこで、払い戻しに関する規定を見てみる。

 ここで「中止なら払い戻しを行う」とあれば、払い戻されるだろう。実際、規約上、あるいはファンへの思いなどから払い戻しをする主催者は多い。他方、東京マラソンはここで「自主的な判断での中止の場合には払い戻さない」と書いてあったことを根拠に、返金をしないとした。

 ただ、小規模なスポーツ大会や市民イベントなら別な理解もあり得るが、チケット販売や参加料を伴う多くのイベントでは、観客・参加者が「チケット代や参加料を支払う債務」を負うのと引き換えに、主催者は「おおむね告知した内容のイベントを提供する債務」を負うと理解すべきだろう。

 となれば、これは消費者契約法上の問題となる。個別の事情によるだろうが、一律返金をしない旨の規約の場合、仮に明記があっても「消費者の利益を一方的に害する規定」として無効になる可能性もあるだろう(同法10条)。いずれにしても、まずは規約を見るのだ。

Q2 規約を見ましたが、何も記載がありません!

A2 よくあることだ。有効な規約合意がない場合、次は民法に従って考える。イベントは既に中止されているので、イベントを提供するという主催者の債務は履行不能に陥っていると考えられる。すると、その中止決定において主催者の落ち度(帰責性)があったと言えるかがポイントとなる。

 帰責性の判断は難しいが、「通常取り得る手段によって、十分な安全性を確保してイベントを開催できる状況と言えたか否か」が決め手となるだろうか。特に、政府や自治体が繰り返しイベント中止の検討を呼びかけているような状況では、恐らく帰責性はないとされる可能性がそれだけ上がるだろう。

 もっとも、実は民法には536条1項という条文があって、主催者に帰責性がない場合でも履行不能の場合、観客・参加者の「反対債務は消滅する」と規定されている。つまり、イベント中止に伴ってチケット代や参加料の支払債務はなくなるため、基本的に払い戻しは必要、ということになりそうだ。

スタッフや出演者の報酬は基本的に不要?

Q3 中止ではなくて、延期されるイベントの場合はどうなのでしょう?

A3 主催者が契約に従ってイベントを提供したと言えるなら、法的には返金は不要となる。これは難問だが、実際に同様のイベントがどの程度の期間を置いて実施されたか、観客や参加者がその新しい期日に参加可能だったかなど、総合的に判断するほかないだろう。現実には、いったんは返金を行うケースも多いように思う。

Q4 では、スタッフや出演者へのギャラは支払われるのでしょうか。

A4 これも、払い戻しの場合と裏表で考えることになりそうだ。つまり出演契約やスタッフ契約に有効な規定があれば、それによるのが原則だ。有効な規定がない場合、イベントが中止された以上、少なくともそれ以降のスタッフや出演者の業務は続けられないだろう。よって、それ以前に意味のある業務はあまり行われていなかった場合、履行不能と見ることになる。

 この場合、主催者によるイベント中止の判断に落ち度がなければ、主催者側の反対債権は消滅しそうだ。つまり、基本的にギャラの支払いは不要となるだろう。中止以前に実質的な業務がおこなわれていた場合は、まさにケース・バイ・ケースの判断だ。

Q5 イベントを実施する場合、マスクの着用を求めたり、せきや熱のある方の来場を断ったりすることはできるのでしょうか?

A5 これも規約に有効な規定があればそれに従う。ない場合、通常は主催者側の「施設管理権」の問題になるだろう。

 これは施設管理者に認められる包括的な管理権限のことで、例えば危険行為を禁止したり、従わない来場者には退場を求めたりすることなどが含まれるだろう。現在の状況では、まさにマスクの着用やせきや熱のある方の退場を求めることは施設管理権の一環として、認められるように思われる。

Q6 少し落ち着いてきました。今回の延期・中止の規模の大きさはめまいがするくらいですが、イベントの主催者や関係者は大変でしょうね。

A6 既に報道されているが、感染症の拡大は、イベント中止保険などでは損害が補填されないケースが多い。中止が長引けば、倒産に至ったり、多額の負債を抱えたりする主催者や関係者も出てくるだろう。社会に活力を与えてきたイベントの現場が疲弊してしまわないよう、事態の早い収束を祈るばかりだ。

 この点、詳細のアップデートや、イベント中止で損失を蒙った主催者やアーティストをファンが支援できる方法はこちらにまとめたので、興味があればご覧頂きたい。

中止・延期となったイベントの一覧

 【文化】 

●EXILE PERFECT LIVE 2001→2020
 2月26日 京セラドーム大阪

●Perfume 8th Tour 2020 “P Cubed” in Dome
 2月26日 東京ドーム

●米津玄師 2020 TOUR / HYPE
 2月27、28日 宮城セキスイハイムスーパーアリーナ
 3月7、8日 三重県営サンアリーナ

●back number fan club tour 2020 one room party vol.5
 2月28、29日 Zepp Nagoya
 3月6、7日 Zepp Sapporo

●MAN WITH A MISSION「FUN WITH A MISSION TOUR 2020」
 3月2、4日 Zepp Fukuoka
 3月9、11日 Zepp Tokyo
 3月16、18日 BLUELIVE HIROSHIMA

●森山直太朗ファンクラブツアー2020「十度目の正直」
 2月27、28日 東京・恵比寿ガーデンホール 6月に延期

●ゴスペラーズ坂ツアー2019~2020 “G25”
 2月28、29日 新潟・苗場プリンスホテル ブリザーディウム 中止と発表
 3月7日 三重・四日市市文化会館 延期と発表
 3月8日 岐阜・バロー文化ホール(多治見市文化会館) 延期と発表

●WANIMA「COMINATCHA!! TOUR 2019-2020」
 2月29日、3月1日 福井サンドーム
 3月7、8日 愛媛県武道館

●NHKおかあさんといっしょファミリーコンサート公開収録
 2月29日、3月1日 愛知県豊田市
 3月7日 北海道釧路市

●NHKのど自慢生放送
 3月1日 岡山県高梁市
 3月8日 山形県米沢市
 3月15日 長崎県諫早市

●AKB48
 2月26日 AKB48劇場と渋谷ストリームホール公演 中止
 3月1日 日立市民会館で予定していた茨城県公演 延期

●福山雅治「FUKUYAMA MASAHARU 30th ANNIVERSARY KICK-OFF LIVE 三十祭!!『序』」
 3月19、21、22日 横浜アリーナ 中止(振り替え公演なし)

●のん「NON KAIWA FES vol.2」
 2月29日 東京・EX THEATER ROPPONGI 無観客状態のライブを収録し、3月29日にMTVで放送

●「LUNA SEA 30th Anniversary Tour 2020-CROSS THE UNIVERSE」
 2月27、28日 宇都宮市文化会館
 3月7、8日 石川・本多の森ホール いずれも延期

●星野源「Gen Hoshino presents “Assembly” Vol.01」
 3月4、5日 横浜アリーナ公演
 3月17、18日 大阪城ホール公演 いずれも中止

 【スポーツ】 

●プロ野球 オープン戦
 3月15日まで計72試合を無観客開催

●Jリーグ
 3月15日までルヴァン杯1次リーグ7試合、J1~3の第2~4節計94試合を延期

●ラグビー トップリーグ
 3月8日までの計16試合を延期

●バスケBリーグ
 2月28日~3月11日 計99試合を延期

●世界卓球2020
 3月22~29日 韓国開催を延期

●ボッチャ  ジャパンパラ競技大会
 2月28~3月1日 東京・有明体操競技場 開催見合わせ

●東京マラソン
 3月1日 東京都庁~東京駅 エリートの部のみ実施

●サッカー ACL1次リーグ FC東京―上海申花
 3月4日 東京・味の素スタジアム 5月に延期

●テニス デビス杯ファイナル予選 日本―エクアドル
 3月6、7日 兵庫県三木市のブルボンビーンズドーム 無観客で実施

●ゴルフ ダイキンオーキッドレディス
 3月5~8日 沖縄・琉球GC 開催中止

●びわ湖毎日マラソン
 3月8日 滋賀・皇子山陸上競技場発着 沿道での応援自粛要請

●名古屋ウィメンズマラソン
 3月8日 ナゴヤドーム発着 エリートの部のみで実施

 【その他】 

●東京ガールズコレクション2020 SPRING/SUMMER
 2月29日 国立代々木競技場第一体育館 無観客で実施

●リクナビ2021合同企業説明会
 3月1~31日 中止

●マイナビ2021主催イベント
 3月1~15日 中止・延期

●にいがた酒の陣
 3月14、15日 新潟市中央区の複合施設「朱鷺(とき)メッセ」

(日本経済新聞、朝日新聞などを基に作成)
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