マンガをスキャンして無断で公開していた“漫画村”。既に閉鎖され首謀者も逮捕されているものの、長期にわたる著作権侵害の配信に米IT企業のクラウドフレアの配信サービスが利用されていたため、ある出版社と漫画家がクラウドフレアに損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。この訴えが認められるのかどうかを検証する。

福岡市内の中央警察署に設置された合同捜査本部が2019年9月に公開した“漫画村”に関わるパソコンなどの押収品(写真/共同通信)
福岡市内の中央警察署に設置された合同捜査本部が2019年9月に公開した“漫画村”に関わるパソコンなどの押収品(写真/共同通信)

Q1 クラウドフレアが提供していた配信サービスとはどのようなものか。

A1 CDN(Content Delivery Network)と呼ばれるもので、同一のコンテンツを、 多くの配信先に効率的に送るための仕組みだ。CDNを簡単に説明すると、データをダウンロードしようとする者の最も近くのサーバーを自動的に選択し、そのサーバーにキャッシュされたデータ(コピーされて保管された元データ)をダウンロードさせる仕組みだ。なお、もともとのデータがアップロードされたサーバーをオリジンサーバーという。

Q2 この裁判で原告の訴えが認められると、社会的な影響があるのか。

A2 CDNは、アップロードされたファイルをネットワーク上でキャッシュするサービスであり、CDNを提供する企業はコンテンツの中身を関知していない。今回のような原告の訴えが法的に認められ、配信するコンテンツの中身にも一般的に責任が認められるとすれば、CDNを提供する企業は訴訟リスクにさらされる。CDNは多くのサイトで利用されているため、社会的な影響はそれなりに大きいと思われる。

“プロバイダー責任制限法”が問題となる

Q3 この裁判において問題となる法律は何か。

A3 いわゆるプロバイダー責任制限法(正式には特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)という法律だ。法律の名前からも分かるとおり、同法はプロバイダーの責任を「制限」している法律であり、同法3条が「損害賠償責任の制限」を定めている。

Q4 プロバイダー責任制限法3条はどのような定めか。

A4 1項において、プロバイダー等(サイト運営者やサーバー提供企業など)は、原則として損害賠償責任を負わないが、(1)削除することが技術的に可能で、(2)その情報が権利を侵害するものであることを知っていたか、知ることができたと認めるに足りる相当な理由がある場合のみ、責任を負うとしている。

プロバイダー責任制限法3条1項
特定電気通信による情報の流通により他人の権利が侵害されたときは、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者(以下この項において「関係役務提供者」という。)は、これによって生じた損害については、権利を侵害した情報の不特定の者に対する送信を防止する措置を講ずることが技術的に可能な場合であって、次の各号のいずれかに該当するときでなければ、賠償の責めに任じない。ただし、当該関係役務提供者が当該権利を侵害した情報の発信者である場合は、この限りでない。
一 当該関係役務提供者が当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知っていたとき。
二 当該関係役務提供者が、当該特定電気通信による情報の流通を知っていた場合であって、当該特定電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害されていることを知ることができたと認めるに足りる相当の理由があるとき。

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