2019年末の「NHK紅白歌合戦」で話題を呼んだ「AI美空ひばり」。果たして、故人をよみがえらせる行為は冒涜(ぼうとく)なのか。こうした故人を再生させるAIやロボットの法的問題や今後の展望を、共著『アンドロイド基本原則』(日刊工業新聞社)など、早期から問題提起を続けている福井健策弁護士に聞いた。
AI(人工知能)やロボット技術を駆使して、故人をよみがえらせる試みのニュースが続いている。大阪大学の石黒浩教授のグループなどにより、夏目漱石、桂米朝、勝新太郎、立川談志がよみがえって、高座や講演、生者との会話などを行う様子が番組化などされている。2019年の「NHK紅白歌合戦」にも出演した「AI美空ひばり」[注1]は、AI技術を駆使して美空ひばりの歌い方を身につけ、ボイスサンプルで本人の声、立体映像で本人の姿を再現し、大きな反響を呼んだ。
一方で、よみがえった美空ひばりの姿に、「気持ち悪い」「死者への冒涜だ」といったネガティブな反応も少なくなかった。
Q1 そもそも、故人をよみがえらせる権利は誰にあるのでしょうか? 誰でも自由にやっていいのですか?
A1 これは、よみがえらせ方による。少し入り組んでいるので、覚悟してついて来てほしい。
Q2 簡単なのがいいのですが……。
A2 黙ってなさい。ここでは故人の容姿、声や話し方、話す内容などを立体映像または物理的なアンドロイドとしてよみがえらせる典型的なケースを想定しよう。すると、まずは写真や映像に残った本人の容姿を写し取ることになる。また、声は生前の録音などからボイスサンプルを取って再現するケースが多いだろう。話し方や話す内容は、生前の発言や文章をAIが学習して身につけると仮定しよう。
すると、写真・映像・文章なら撮った人や書いた本人の「著作権」がある。本人の容姿には「肖像権」がありそうだ。録音には「著作隣接権」という権利がある場合もあり、話す内容がプライベートな事柄なら本人や周囲の人物の「プライバシー権」なども関わるだろう。ごくざっくりまとめると、次の表のようになる。
上の行から、使われる素材、関わる権利、そして開発者がその素材をどう使うかに応じて、○が「権利者の許可が必要」、-が「許可は不要」、△は「場合による」だ。気をつけたいのは、あくまで「その素材がどう利用されるか」で考えていることだ。例えば「実演・映写」とは、AIが本人の生前の文章を人前で語るとか、アンドロイドの口から本人の生前の音声が発せられることを指す。
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