2012年の流行語大賞にノミネートされた「ステマ」が、ここに来て再び脚光を浴びている。現在も騒ぎが続くのは、映画『アナと雪の女王2』を巡るステマ疑惑。ウォルトディズニー・ジャパンまでが謝罪するという事態に発展した。いったいどこまで「仕込み」は許されるのか。福井健策弁護士に聞いた。

 『アナと雪の女王2』を巡っては、広告代理店などから依頼を受けた7人のウェブ漫画家が、映画の感想ツイート用ハッシュタグを付けて一斉に絶賛感想マンガをツイート。これが「ステマではないか」と騒ぎになり、漫画家本人、さらにはウォルトディズニー・ジャパンが謝罪した。一億総発信・総受信時代に、SNSでのステマへの目は厳しさを増す。いったいどこまでの「仕込み」「ステマ」は許されるのか。

ウォルトディズニー・ジャパンが公式ホームページで公開した謝罪文
ウォルトディズニー・ジャパンが公式ホームページで公開した謝罪文
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Q1 ステマとはなんでしょうか?

A1 対価をもらうなどして行う広告なのに、広告だと表示しないことを「ステルス・マーケティング」、つまりステマと言いますね。例えば影響力のある芸能人が報酬をもらい、クチコミサイトで特定の商品を絶賛する書き込みをしたり、グルメサイトでお店の関係者が高い評価を付けたりするのが典型例となります。

Q2 ステマは違法なのですか?

A2 日本には、「ステマそのものを取り締まる法律」はありません。ただ、ステマは広告の一種ですから、結果として実際の商品より優れているとか有利だとか、消費者が誤解するような内容の発信をすると、景表法(不当景品類及び不当表示防止法)や不正競争防止法といった法律に違反することがあります。不正競争防止法の場合、罰則は最高で懲役5年または罰金500万円ですから、軽々にはできないですね。

Q3 では、内容さえ間違っていなければステマは自由ですか? 例えばお金や何かの便宜を受けて人のためにツイートしても、違法ではないのですか?

A3 本当に面白かったから「面白い」とツイートしたのならば、恐らく違法ではないですね。ただ、違法ではなくてもステマには厳しい目が注がれがちです。なぜなら、本当は広告なのに、中立的な第三者の発信のように装っているからです。

Q4 それは、どうして悪いのですか?

A4 我々は、広告だとか、関係者の発信だと思えば、ある程度「盛られているな」という前提で見ますよね。でも、利害関係のない第三者の発言ならば、それより信頼できると思いがちです。だから、クチコミサイトやレビューサイトはこれほど隆盛しているのですね。そこでクチコミを装った広告をやられると人々は誘導されますから、公平な判断ができなくなる可能性がある。

 そのため、WOMJ(WOMマーケティング協議会)と呼ばれるクチコミ・マーケティングの業界団体がステマについてのガイドライン を公表しています。その柱は、「クチコミを目的とした重要な金銭・物品などの提供が行われる場合、広告主はその関係性を受信者が容易に理解できるように明示すべく、発信者に義務づけること」(同3項)、です。例えば、今回も「#PR」といったハッシュタグがあれば問題は少なかったのでしょう。ただ、広告業者はまさにPRだと思わせたくないわけですから、その一言をどうしても嫌がる傾向がありますね。

Q5 でも、あからさまな宣伝に見えないような、ある程度の「仕掛け」って、けっこう誰でもやってませんか?

A5 確かに、利害関係のある人がさりげなく好意的な発言をするなんて、世の中のどこでも見られることですね。それをまるっきりやるなと言われたら、友人や仕事先については何も対外発信できないといった極端なことになってしまいます。

 つまりは程度問題ですが、恐らくポイントは、一般の消費者の目線で「依頼された発信」「利害関係者の発言」だと分かるかどうか。そして、そういう裏があることが「消費者の通常の期待を裏切っているか」でしょう。

 今回のアナ雪騒動でも、「漫画家たちが同時にツイートすれば企画ものだと分かるから、PRという表示は要らない」という説明があったとされますが、一般のユーザーは同時に全部のツイートを見るわけではないので、この説明には無理があります。もっとも、境界線はやはりかなり曖昧ですね。しかも許容範囲は、時代の風潮と共に変わりそうです。

Q6 確かに、許される「仕掛け」と許されない「ステマ」、区別が難しいですね。

A6 送り手側は、「どこまでやったら受け手の通常の期待を裏切ることになるのか」を考え続ける姿勢が大事でしょう。一方、受け手も、文脈を見て「ありがちな話を見抜く目」を養っていくしかないように思います。