ミッキーマウスの米国での著作権が2023年に切れる。世界でのキャラクター収入が年間5000億円とも言われる(ロイター2016年報道)超人気キャラの権利が切れるとなれば、キャラクタービジネス界を揺るがす大事件だ。ミッキーマウスを題材に、キャラクターの保護期間に関する論考を公表した福井健策弁護士に尋ねた。

 米国でミッキーマウスの著作権が切れるのは2023年だが、最近、ミッキーの日本での著作権はさらに早く、来年2020年には消滅するかもしれないという刺激的な論考が、一部で話題を呼んでいる。いったい、キャラクターの権利の保護期間はどう計算するのか? 権利が切れると、何が可能になるのか?

Q1 キャラクターの権利が切れると、何ができるようになるのですか?

A1 著作権には保護期間があって、それが終了すると原則として自由に使える。1点注意が必要なのは、キャラクターの名前や図柄が商標登録されている場合などで、この場合には対象となる分野で名前や図柄をトレードマーク的に使うことはできない。ただ逆に言えばそうでない利用はかなり広範に自由になる。

 ミッキーマウスについて言えば、権利が切れるのは当初の映像作品やそこに登場したオリジナルのミッキーマウスだが(下図)、それでもこうした作品を新たに配信したりDVDを販売したりするのはもちろん、オリジナル・ミッキーに基づく二次創作やその商品化なども広く自由になる。まさにミッキー自由化だ。

ミッキーマウスの「デビュー作」、映画『蒸気船ウィリー』(1928年)の50周年記念ポスター
ミッキーマウスの「デビュー作」、映画『蒸気船ウィリー』(1928年)の50周年記念ポスター

Q2 すごいインパクトですね。日本でも自由になるのですか?

A2 いや、著作権の保護は国ごとなので、日本での権利が切れていなければ、日本での利用は自由にならない。

Q3 では、ミッキーマウスは日本ではいつ切れるのですか?

A3 実は、米国の著作権法と違って、日本での保護期間の計算はとてつもなく複雑だ。ちょっと覚悟して付いてきていただきたい。

 一番早期に切れるとする見解は、恐らく「1989年にもう切れていた」というものだ。ミッキーマウスのデビュー作は28年の映画『蒸気船ウィリー』だと言われている。映画の著作権は従来は「公表から50年で終了」だった。ただし、米国など戦前の連合国の作品は「戦時加算」という義務を日本が負っていて、10年5カ月ほど日本での保護は延びる。それで28年末に60年5カ月をプラスして、89年5月に切れたという計算だ。

 その後、2003年に日本では映画の保護が「公表から70年」に延長されたが、その時点で既に切れている作品は復活しないので、結論は一緒というわけだ。

 ところが、この1989年説は恐らく少々厳しい。というのは現行法以前の「旧著作権法」という要素がさらにあって、かつては実名公表の劇映画の著作権は、映画監督など「著作者」の「死後38年間」という保護だった。そして、ここがポイントだが、現在の公表時から起算する計算法に入れ替わった後も、この「死後38年」での期間のほうが長い場合にはそちらが優先なのだ。よって、誰がオリジナル・ミッキーの創作者なのか、その人物はいつ死んだのか、がポイントになる。

Q4 ミッキーの創作者はウォルト・ディズニーじゃないんですか?

A4 そこに、ミッキー著作権問題のスリリングさがある。確かに最も広く流布した『蒸気船ウィリー』のポスター(前掲)などを見ると、登場する人間の名称は「ウォルト・ディズニー」のみだ。しかし、『ウィリー』を含む初期ミッキー映画の冒頭の表記はこうだったのだ(下図)。

『蒸気船ウィリー』(1928年)と、それ以前にパイロット版が制作されていた『プレーン・クレイジー』(1928年)。いずれもクレジットは同じ
『蒸気船ウィリー』(1928年)と、それ以前にパイロット版が制作されていた『プレーン・クレイジー』(1928年)。いずれもクレジットは同じ

日本では2020年? 2052年?

「The Hand Behind The Mouse」(1999年。DVD『Walt Disney Treasures オズワルド・ザ・ラッキーラビット』に所収)よりロイ・ディズニー(ウォルト・ディズニー元副会長)
「The Hand Behind The Mouse」(1999年。DVD『Walt Disney Treasures オズワルド・ザ・ラッキーラビット』に所収)よりロイ・ディズニー(ウォルト・ディズニー元副会長)

 「アブ・アイワークス作」。アイワークスとはディズニーファンの間では知られた伝説のアニメ作家で、ウォルトの相棒だった人物だ。そして、最近ディズニー自らが制作したドキュメンタリーでは彼は「隠れた英雄」と呼ばれ、ウォルトの甥のロイ・ディズニーはじめ「ミッキーはほぼアイワークスが独力で創作した」と断言しているのだ。どうやら、初期ミッキーが少なくともウォルトとアブの共著であったことは間違いないようだ。

 この場合、「最後に死んだ共著者の死後38年」がポイントになる。なんとアブのほうがウォルトより5年長生きだった。その死亡時である1971年に38年(プラス戦時加算)で、2020年5月にオリジナル・ミッキーの保護は終了と出る。

Q5 なんと、日本では来年ミッキー自由化ですか!

A5 ところが、まだ終わりではないから「覚悟せよ」と言ったのだ。これは『蒸気船ウィリー』など映画だけに注目した場合の話。実は映画を作る前にアブが描いたミッキーの原画がある(下図左)。

「The Hand Behind The Mouse」より(右はアブ・アイワークス)
「The Hand Behind The Mouse」より(右はアブ・アイワークス)

 この保護を映画とは別に独立したものと考えると、一気に長期化して2052年までオリジナル・ミッキーの著作権が存続する。どちらの立場を取るかで、実に30年も日本での保護期間は変わりそうなのだ。そして、こうした問題は、ミニーマウスであれベティ・ブープであれ、バッグス・バニーであれ、映像から生まれた他の多くのキャラクターに共通して付いて回る。このあたりは説明が長くなるので、こちらの論考を参照していただきたい。

Q6 その終わり方、ひどくないですか?

A6 キャラクターの保護期間は、それほど厄介な問題なのだ。日本の著作権の期間計算は複雑過ぎて、映像発キャラクターを筆頭に、古い作品のビジネス展開を逆に阻んでしまっている。この点を、今後、政府はしっかり考えていくべきだろう。