記憶に新しい吉本芸人問題。反社会的勢力との交流、闇営業の是非と芸人たちの懐事情、「涙の逆襲会見」から吉本経営陣のパワハラ疑惑へと、番組報道はさながら日替わり公開審問の様相を呈した。公正取引委員会さえ関心を示す芸能人と事務所の契約事情について、その仕組みと課題を福井弁護士に聞いた。

(写真提供/共同通信社)
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 吉本論争は、既に数年前から始まっており今後も続くだろうエンターテインメント界の大課題にも、改めて光を当てた。「芸能人と事務所の契約」だ。

Q1 吉本には契約書はないと聞いて驚きました。そんな例は多いのでしょうか。

A1 以前に比べれば契約書を交わすケースは増えているが、「契約書なし」というケースはまだかなり多いだろう。もっとも、誤解がないように言っておくと、「契約書がない=契約がない」ではない。仮にも事務所に所属している以上、そこには何かの「合意」があるはずで、契約は口頭でも成立するのだ。

 吉本の大崎洋会長もインタビュー[注1]で述べていた通り、口頭での合意にはフレキシブルだという長所もある。ただ、他方で約束内容が曖昧で「言った言わない」にもなりやすい。また、芸能事務所は所属メンバーと契約書面を交わさないと下請法違反になる可能性[注2]もあるため、契約書を交わす例は今後さらに増えていくだろうし、そうすることを勧めたい。

 今後は芸能人・事務所双方とも、自分の身を守り関係を客観化するため、契約の基本は知っておくべきだろう。そして周囲の関係者や報道を見る私たち自身も。

Q2 所属契約には、通常どんなことが取り決められるのでしょうか。「裏営業」は契約違反ですか。

A2 タイプは様々だが、典型的なものは「専属契約」だ。ここでは事務所はタレントをマネジメントし、その出演先などの仕事を(タレントの意見を聞くなどして)決定する。タレント側は事務所を通さずに業務を行うことは基本的に禁じられる。よって、宮迫氏らのようなケースは「闇営業」と言われ、専属契約の場合には契約違反となる。

 これに対して、非専属型の契約もあり、タレントは自ら外で仕事を取ってくるのは自由だ。事務所は日常のマネジメントは行わず、良い仕事を見つけて回すのみ、という「エージェント型」の契約には非専属型も少なくないだろう。

 契約期間は、特に専属契約の場合は重要で、通常は2~3年が多い。これに自動更新条項というものが付いて、双方が一定期限までに契約終了を通告しない場合、契約は同じ条件で自動的延長されていく形だ。過去には、海外の例で10年以上の長期拘束期間を伴う「奴隷契約」[注3]も報じられたことがあるが、まず効力はないだろう。

Q3 支払いは給与制が多いのでしょうか。

A3 タレントの活動による収入は、いったんは事務所に入金されるケースが多い。そこからの配分法は様々だ。事務所はタレント活動に要する経費(衣装費、レッスン費、交通・宿泊費)を負担した場合、収入からそれを回収する。その残額をタレントと事務所が歩合で分け合うケースも多いし、逆に大もうけしようが赤字だろうが事務所がタレントに一定の固定給与を保障する形もある。

 特に、「育成期間」と言われる新人の期間には、歩合などと言っても赤字で発生しないだろうから、事務所が控えめな固定額の支払いを保障するか、あるいは事務所はレッスン代などを負担するのみでギャラはまだ発生しない形もある。