前回『後を絶たない「ジェンダー炎上」 その分類から対策を見通す』は、ジェンダー炎上した事例を(1)「エロ・セクシュアル型」と(2)「ステレオタイプ型」の2つに大きく分類して分析した。今回は、それらの分類を踏まえて、フランテック法律事務所代表の金井高志弁護士に、ジェンダー表現に関する法的規制や自主ルールの有無などについて聞いた。
「エロ・セクシュアル型」は、性行為を連想させる表現を用いたり、広告に注目させるための視覚的要素(アイキャッチ)として女性を扱ったりする類型であり、「ステレオタイプ型」は、家事・育児は女性がするものといった性役割を固定化したり、女性は美しくあるべきだといったイメージを固定化したりする類型である。
Q1 エロ・セクシュアル型に関わるジェンダー表現自体について法的規制があるか?
A1 エロ・セクシュアル型といっても、広告宣伝であり、わいせつな表現や児童ポルノといった法律に触れるような広告表現がなされることは、通常考え難いが、最低限の法的規制がある。例えば、刑法第175条は、わいせつな文書、図画、デジタルデータなどの電磁的記録などを、人々に配るといった頒布、販売、陳列、送信することを禁止している。
また、満18歳未満の者を性的表現の被写体とすることは、当人の同意があったとしても、「児童ポルノ法」(「児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律」)によって禁止されている。さらに、青少年の健全な発達を守ることを目的とした性表現規制として、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」や、法律ではないが各地方自治体の条例がある。
このように刑法や児童ポルノ法などはあるが、日本国内において、エロ・セクシュアル型に関するジェンダー表現に対する直接的な法規制は存在しないと考えられる。
社会的な法制度は整備されつつある
Q2 ステレオタイプ型が批判される背景となっている、イメージ固定を是正する男女平等に関する法制度はどのようになっているのか?
A2 第2次世界大戦後の日本における男女平等に関する法制度の歴史は、1946年、日本国憲法に「法の下の平等」が明記され、明白な男女別の取り扱いが差別であるという原則が確立されたことから始まる。その後、日本は、85年、国連女性差別撤廃条約を批准したが、そのために国籍法を改正し、また、男女雇用機会均等法を制定し、家庭科の男女共修をスタートさせるなどしている。
男女雇用機会均等法が制定される以前は、男女間での賃金差別は労働基準法第4条によって禁止されていたが、賃金以外の男女間での差別禁止規定が存在していなかった。この男女雇用機会均等法は、雇用に関する募集・採用から定年・退職、解雇に至るまでの男女間での差別を禁止したとして、画期的なものであった。
その他にも、形式的に男女間での平等を確保するだけでなく、実質的に男女間での平等を確保するため、99年に男女共同参画社会基本法等が制定された。この男女共同参画社会基本法は、形式的に男女間での差別を禁止するだけでは男女間での差別が解消されないことから、不平等を是正するために一定の人々を優遇することは差別ではないという、いわゆるアファーマティブ・アクションを定め、男女間での実質的な平等を確保することを目指しているものである。
また、ジェンダー表現を含むジェンダーの平等は、国連による「持続可能な開発(SDGs)のための2030アジェンダ」を構成する17のグローバル目標の一つとなっている。
以上のように社会的な法制度などが整備されつつあるが、前回、ジェンダー炎上の実際の事例を見てきたように、依然として性役割を固定化するなどの男女間での差別が存在しているのが現状である。
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