「データビジネス・AI開発の現場を変える改正著作権法」で解説した2019年1月1日施行の改正著作権法には、もう1つ、「情報解析」を典型的な場面として定めている条項がある(改正後の47条の5)。データビジネスのさらなる発展に資する改正事項と考えられるため、その詳細をアンダーソン・毛利・友常法律事務所の中崎尚弁護士に聞いた。
改正後の47条の5は、従来、検索エンジンサービスにのみ適用されてきた権利制限規定(改正前の47条の6)に代わって導入された規定だが、改正後の規定では、検索エンジンサービスのみという限定がなくなり、「新たな知見・情報を創出する電子計算機による情報処理の結果提供に付随する軽微利用等」について許容することとされた。
Q1 なぜ検索エンジンサービスにのみ適用される権利制限規定が定められていたのか?
A1 改正前の47条の6は、インターネット情報検索のための複製等について、権利制限を定める条項であった。これは世界でも珍しい、インターネット検索に焦点を当てた条項であった。このような条項が設けられた背景としては、わが国のインターネット検索サービスを含むIT産業が、海外に大きく後れを取っていることへの反省があったと説明されることが多い。
すなわち、インターネット検索サービスでは、サービスの性質上、インターネット上で収集した情報を、サーバーに複製する作業が不可欠であるところ、わが国の著作権法では、一般的な権利制限規定がないため、そのような複製行為は著作権法違反になってしまい、わが国では、合法的にインターネット情報検索サービスを提供することができない、という問題が指摘されていた。
この問題をクリアするための立法上の手当てが検討された。IT産業の振興策という観点からは、より広い場面をカバーする一般的な権利制限条項を導入することも考えられたが、当時は時期尚早とされ、最終的には、インターネット情報検索というピンポイントの場面に絞った権利制限条項で手当てすることとなった。
Q2 今回の改正法で、検索エンジンサービスのみという限定がなくなったのはなぜか?
A2 このインターネット情報検索における権利制限が許容された背景としては、同サービスが社会的に重要な意義を有する一方で、著作物の利用があるとしてもそれが軽微なものである限りにおいては許容すべきである、という価値判断がある。このような価値判断は、インターネット外で、大量の情報を取り扱う場面でも妥当するのではないか、という指摘が以前からなされてきた。今回の改正法47条の5についても、この指摘が実現したものとみることができる。
改正法47条の5第1項では、以下のようなルールが設けられた。
コンピュータを用いた情報処理により、新たな知見又は情報を創出する以下の(1)(2)(3)のいずれかの行為を行う者で、政令に定める基準に該当する者は、公衆への提供・提示が行われた著作物を、行為の目的上必要と認められる限度において、利用方法を問わず、著作権者の許諾なく、軽微な利用ができる。
(1)所在検索サービス(求める情報を特定するための情報や、その所在に関する情報を検索する行為)
(2)情報解析サービス(大量の情報を構成する要素を抽出し解析する行為)
(3)(1)(2)のほか、コンピュータによる情報処理により、新たな知見・情報を創出する行為であって、国民生活の利便性向上に寄与するものとして政令で定めるもの
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