いわゆるバイトテロがいくつも発生して騒動となった2019年2月以降も、新たなバイトテロが発生した。その際、バイトテロそのものより、発生した企業の事後対応に世間の注目が集まった。そこで、この件に関する事後対応について、フランテック法律事務所代表の金井高志弁護士に解説してもらった。

バイトテロのイメージ画像
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Q1 コンビニエンスストアや飲食店などのアルバイト店員が、店の商品や什器(じゅうき)を使用して悪ふざけを行う様子をスマートフォンなどで撮影し、その撮影した動画をソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に投稿したことでネットにおいて炎上する事件、いわゆるバイトテロに関する事後対応として、どのようなものが考えられるのか?

A1 バイトテロに関する事後対応としては、(1)アルバイトを含む従業員に対する対内的な対応と、(2)顧客などに対する対外的な対応とが考えられる。(1)対内的な対応としては、バイトテロを発生させた者に対する懲戒処分及び従業員の社内研修の実施があり、(2)対外的な対応としては、レピュテーションリスクの回避のための広報対応がある。

Q2 バイトテロが発生した企業の対内的な事後対応としてどのようなことがなされたのか?

A2 バイトテロが発生した企業では、まず、バイトテロを発生させたアルバイトに対して、解雇等の懲戒処分がなされた。もっとも、人材不足の昨今において、アルバイトの場合、懲戒解雇されても別のアルバイト先がすぐ見つかるとアルバイトは考えるため、懲戒解雇であっても抑止力として効果が薄いものである。そのため、さらなるバイトテロを防ぐためには、アルバイトに対して懲戒処分をちらつかせるのではなく、従業員に対する研修の実施によりバイトテロをさせないようにすることが大切である。

 バイトテロ発生の企業が従業員に対して実施した研修内容としては、店内における服務規律、食材・店舗備品の取り扱いルール等の徹底、そして、SNS等のインターネットへの投稿における社会的影響と責任についての教育、さらに、スマートフォン等の携帯端末についてバックヤード等の一定の場所を除く店舗内への持ち込み禁止のルールの徹底等が挙げられる。

自分ごとに思わせる研修が効果的

Q3 バイトテロが発生した企業が実施した研修を参考にどのような研修を実施すべきか?

A3 数カ月で辞めてしまうようなアルバイトについては、自身が勤務している企業に対するロイヤルティーを高めることが難しいため、アルバイトに対し、バイトテロによって自身の勤務する企業が損害を被り、場合によっては倒産しかねない旨を研修で伝えたとしても、他人ごとと思われてしまい、効果的とはいえないであろう。

 また、バイトテロを発生させないためには、そもそも不適切行為をさせないように、食材・店舗備品の取り扱いルールを周知徹底させることが大切であるが、バイトテロを行うアルバイトは、不適切行為をすることを目的としているのではなく、SNSに投稿するために不適切行為を不適切と理解していながら行っていると思われることからすれば、バイトテロ対策としては、いかに不適切行為をSNSに投稿させないかが重要となる。

 そこで、アルバイトに対し、バイトテロが、他人ごとではなく、自分ごとであるということを理解させることが必要である。具体的には、バイトテロの過去の事例を紹介し、匿名の投稿であっても、氏名や在学の学校名、経歴等が特定され、学校を停学や退学になってしまうことを理解させることが必要である。

 また、投稿者が自らの投稿を削除したとしても、それは「デジタルタトゥー」として半永久的にインターネット上に残り続ける。投稿者の就職活動の際、企業の採用担当者がその応募者である投稿者の名前を検索することで、企業に投稿者の過去のバイトテロのことを知られ、投稿者が希望する企業へ就職することができないなど投稿者の将来に悪い影響を与えることなどを理解させることが必要である。

新しいSNSが登場したら注意喚起が必要

Q4 拡散力が弱いSNSについてアルバイトに対して特に注意喚起しておくことは?

A4 投稿から24時間経過すると表示されなくなる機能や、Twitterのようなリツイート機能を有していないSNSだったとしても、スクリーンショットや別のアプリを用いることなどにより、拡散力の強いTwitter等のSNSに転載され、拡散される可能性がある。そこで、「プライベート」なSNSなどというものが存在しないことを周知徹底させる必要がある。

 特に、Instagramが、2018年11月、フォロワーの中でもさらに自ら選んだ親しい友達にしか公開されないようにする「親しい友達機能」を実装した。今後この機能が普及すると、親しい友達だから大丈夫といってアルバイトが不適切投稿をする可能性があり、これをきっかけとするバイトテロが発生する可能性がある。このように、既存のSNSに新しい機能が追加されたり、新しいSNSが登場したりした場合には、特に注意喚起が必要である。

Q5 SNS利用のためのガイドラインの内容や研修としてどのようなものが有益か?

A5 SNS利用のためのガイドラインを策定していない会社は、そもそも、研修の前提としてSNS利用のためのガイドラインを策定することが必要である。その内容も、○○禁止といった禁止事項や利用の制限を規定し、また、違反に対しての懲戒処分をちらつかせるのではなく、アルバイト自身のためを思って研修をさせているとアルバイトに感じさせるような、すなわち「自分ごと」と思えるような文章・内容にするなどの工夫が必要である。

 また、文章だけよりも漫画の方が印象に残りやすいことから、さらに一歩進めて、ガイドラインを単に文章で作成するだけでなく漫画でも作成して、SNSの利用の注意点の理解を促している大学もある。このような手法は会社においても有益であると考えられる。

 さらに、SNS利用のためのガイドラインに基づく研修の際に、読み聞かせやアルバイト同士でのディスカッションをさせるなど、SNS利用のためのガイドラインの内容を理解させることも有益であると考えられる。

Q6 アルバイトに誓約書を提出させる必要があるか?

A6 アルバイトの場合、集合研修を受けさせることが難しいことから、バイトテロを発生させてしまった場合のリスク等を十分に理解させたうえで、さらに注意を喚起し、抑止力を高めるために誓約書を提出させることも考えられる。この誓約書には、抽象的な事項を並べるだけでは抑止効果を期待することができないことから、SNS利用のためのガイドラインの内容を踏まえて、SNSを利用するうえで理解しておくべき事項や行ってはならない事項を、できるだけ具体的に記載しておく必要がある。

Q7 レピュテーションリスクの回避のための広報対応としてどのようなものが考えられるか?

A7 まず、広報の媒体としては、バイトテロの対象となった企業が、バイトテロの元となった一次投稿先及び拡散元となったSNSに公式アカウントを保有している場合には、そのSNSで謝罪や改善に向けての文章を公表することがよいと考えられる。また、SNSの公式アカウント以外にも、自社のWebサイトにおいても謝罪や改善に向けての文章を公表する必要がある。

 もっとも、一度下がってしまったレピュテーションを回復するためには、謝罪や改善に向けて発表する内容について、マスメディアに取り上げられることが重要であり、そのためには、マスメディアに取り上げられるようなインパクトのある研修を実施することが考えられる。

 バイトテロに関する対応ではないが、従業員が顧客に対し人種差別をするかのような接客をして世論の批判を受けた米国スターバックスコーヒーは、18年5月に米国において全店を一斉休業して研修を実施した。その報道は、海を越えて日本のマスメディアにも取り上げられた。日本においても、バイトテロが発生した大戸屋は、全店を一斉休業して研修を実施したことがマスメディアによって大きく取り上げられたことにより、企業のレピュテーションを維持し得たといえ、参考になると考えられる。

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(写真/shutterstock)

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