コンビニエンスストアや飲食店などのアルバイト店員が、店の商品や什器(じゅうき)を使用して悪ふざけを行う様子をスマートフォンなどで撮影し、その撮影した動画をソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)に投稿したことでネットにおいて炎上する事件、いわゆるバイトテロが、2019年2月、いくつも発生し、騒動となった。
Q1 過去に発生したバイトテロの内容は?
A1 いわゆるバイトテロと称される行為が最初に世間の注目を浴びたのは、07年7月に、吉野家の厨房内で店員がメニューにない超大盛り豚丼について「テラ豚丼」と称して作る様子を撮影し、ニコニコ動画に投稿した事件である。
その後、13年に、ローソンにおいて、店員が、アイスケースに入り寝そべった状態の写真をFacebookに投稿した事件、多摩市の蕎麦(そば)屋・秦尚において、店員が、食器洗浄機や冷蔵庫に寝そべった状態で入りながらはしゃぐ様子の写真をTwitterに投稿した事件等が発生した。この頃から、これらの不適切行為の投稿により企業・店側のイメージダウン、什器等の清掃、売り上げ減少などの損害が発生することから、これらの行為が「バイトテロ」と呼ばれるようになった。また、不適切行為をTwitterに書き込むことについて、「バカッター」と呼ばれるようになり、13年の流行語大賞の4位を獲得している。この時期を第一次バイトテロ炎上騒動と呼ぶことができ、今回は、第二次バイトテロ炎上騒動といえる。
Q2 バイトテロは、どのような企業で発生しているのか?
A2 過去の事例や今回の事例において、事業者を事業の対象とするBtoBの企業においてはバイトテロがほとんど発生しておらず、主に消費者を事業の対象とするBtoCの企業、それも食品を扱う企業において、バイトテロが発生している。
Q3 約5年前の第一次バイトテロ炎上騒動との違いは?
A3 約5年前にバイトテロが頻発した時には、そのコンテンツは静止画であった。また、バイトテロの一次的な投稿先はTwitterであり、拡散媒体もTwitterであった。しかし、今回のバイトテロでは、そのコンテンツは動画へ、また、一次的な投稿先もInstagramのストーリーズ機能の利用へと変化している。ただし、バイトテロの拡散SNSは、約5年前と変化することなくTwitterである。すなわち、約5年前と今回とでは、コンテンツが静止画から動画に変化しており、その一次的な投稿先もTwitterからInstagramへと変化しているが、拡散媒体は共にTwitterのままである。
今回、一次的な投稿先となっているInstagramは、約5年前の第一次バイトテロ炎上騒動時には日本においてはその利用者が少なく、そのストーリーズ機能は、その後、16年8月に備えられたものである。
Q4 一次的な投稿先がInstagramとなっている理由は?
A4 まず、Instagramの公式機能自体としては、Twitterのようなリツイート機能が備わっておらず、また、投稿された画像や動画をダウンロードする機能も備わっていないため、Instagramそれ自体としては、一般的にTwitterと比べ拡散機能が弱いSNSである。今回、不適切動画が投稿された媒体は、TwitterではなくInstagramで、そのタイムラインに投稿されたのではなく、投稿されてから24時間経つと自動的に表示されなくなる機能を有するストーリーズである。
バイトテロを起こした投稿者であるアルバイトには、そのようなInstagramのストーリーズ機能を使えば、あまり拡散されることはないであろうという考えがあり、拡散されるという意識が弱かったものと考えられる。このようなことから、投稿者は、TwitterではなくInstagramを第一次的な投稿先に選んだと考えられる節がある。
しかしながら、今回もアルバイトによる不適切投稿が炎上するに至っている。これは、主にInstagramに不適切行為が投稿された後、その不適切投稿を見た第三者がその不適切投稿をダウンロードし、またはスクリーンショットして、リツイート機能を備えて拡散力が強いTwitterに転載したことによる。Instagram自体は拡散力が弱く、ダウンロード機能が備わっていないが、iPhoneの画面収録機能や別のアプリを用いることで不適切投稿は容易にダウンロードされるものであるため、不適切投稿が転載され拡散される可能性がある。ネットには、炎上させる目的で、不適切投稿がないか日々調べている者もいるため、公開設定のアカウントの場合には、Instagramのストーリーズ機能を使った投稿であっても、拡散されないとは言えない。
また、親しい友人などだけとつながっている非公開設定のアカウントであるとしても、フォロワーが転載する可能性があることから、非公開設定のアカウントへの投稿でも、拡散されないとは言えないのである。
効果的な初期研修が対策の柱に
Q5 不適切行為をさせないための対策とは?
A5 事前対策として、不適切行為をさせないこと及びSNSにアップロードさせないことの2つに分けることができる。
まず、アルバイトに不適切行為をさせないための対策について、第1は、初期研修によって、企業や店舗の経営方針や運営理念を説明し、不適切行為をしてはならないということをアルバイトに十分理解させることである。そのためには、初期研修の内容として、特に飲食店の場合、人の口に入る物なので、床に落ちた食材を使用した場合等には、最悪の場合人の生死にかかわることがある旨について事例を交えて説明することや、そのことについてディスカッション等をすることが考えられる。
そして、アルバイトに対しては、そのような初期研修によって不適切行為をしてはいけないことについて十分理解させたうえで、禁止事項の誓約書に署名させることが有益であると考えられる。
また、アルバイトの業務中において、店舗にアルバイトが数人いるような場合はアルバイトだけにするのではなく、正社員を常駐させ、監督をさせておくことで抑止的効果が期待できると考えられる。ただ、特に若い正社員の場合、アルバイトと一緒になって不適切行為をする可能性があることは否定できず、また、人件費のコスト面でも難しい場合があるであろう。正社員の常駐が難しい場合、監視カメラを設置することにより、抑止的効果が期待できると考えられる。また、将来的には、人に監視カメラの映像を監視させるのではなく、AIによって監視させる可能性もあるであろう。
フランチャイズチェーンにおいては、フランチャイズ本部の直営店だけではなく、加盟店の店舗も存在する。加盟店の店舗においてアルバイトと雇用契約を締結しているのは、フランチャイズ本部ではなく加盟店であることから、アルバイトに対する初期研修については、本来的には加盟店が責任をもって行うべきである。
しかし、一度バイトテロが起こると、フランチャイズチェーン全体のブランドに傷がつき、その影響も大きいことから、フランチャイズ本部は、加盟店の経営者を通じて、加盟店のアルバイトに関しても積極的に指導を行う必要があると考えられる。また、アルバイト雇用時の初期研修だけでなく、アルバイトが不適切行為をしないように継続的に注意喚起をする必要があると考えられる。
Q6 SNSにアップロードさせないための対策とは?
A6 SNSにアップロードさせないためには、不適切行為に対する対策と同様に、アルバイト雇用時の初期研修が重要となってくる。ある調査結果では、自己のSNSに対する投稿が問題になったことがある人の8割以上が自分の投稿について問題になると思わなかったと答えている。このことからすると、どのような投稿が問題となるのかといったことを初期研修の中心テーマとしなければならない。
具体的な内容としては、まず、過去のバイトテロの事例を紹介し、バイトテロを起こすと勤務している店舗が閉店せざるを得ないことになることや、店舗運営企業に対し多額の損害賠償金を払わなければならないことがあること、また、たとえ匿名アカウントへの投稿であっても個人名や大学等が特定され、それがデジタルタトゥーとしてネット上に一生残り、就職や結婚等に影響し、自分だけでなく家族や恋人、関係者にも影響が及ぶことなどを理解させる必要がある。
また、SNS一般の使用方法について注意喚起するのではなく、個々のSNSそれぞれについてその特性に沿った注意喚起が必要であり、仮に拡散力が弱いSNSであっても、Twitterのような拡散力の強いSNSに転載されて拡散されるおそれがある点についても、注意喚起する必要がある。特に、新たなSNSが登場した場合には、そのSNSごとに注意喚起する必要がある。そして、上記SNSの利用に関するリスクについて理解させたうえで、SNSの利用に関する誓約書に署名させることが有益である。
さらに、アルバイトの業務中においては、そもそもスマートフォン等、写真や動画を撮影できる機器を勤務場所に持ち込ませないように、持ち込みを禁止することが効果的であると考えられる。より厳格に対策をするのであれば、単に社内ルールとしてスマートフォンの現場への持ち込みを禁ずるのではなく、支給する制服にポケットをなくすことや就業時には保有するスマートフォン等をロッカーや金庫へ預けなければならないといった対策を講ずることも検討に値する。
(写真/シャッターストック)