ダウンロードを巡って情報社会が揺れている。論争の的は、「ダウンロード違法化」という制度の拡大だ。海賊版対策のために政府が今通常国会での導入を検討しているが、さまざまな関係者からの懸念や修正意見が相次ぐ。何が問題で、今後どうなりそうなのか? 著作権問題に詳しい福井健策弁護士に聞いた。
Q1 どんな法律なのでしょうか。
A1 漫画や文章は基本的に著作物なので、本来自由にコピーなどはできないが、著作権法には「私的複製」という重要な例外があって、個人的な楽しみや勉強のためならば無許可でコピー可能だ。これは実は、借りて来たCDなどでも、また海賊版からでも、原則として可能である。ただ、海賊版と知りながらダウンロードするのはさすがにあんまりだという理由から、2009年に違法にアップされた音楽・映像と承知でダウンロードする行為は違法となった(その後刑事罰も付加)。いわゆるダウンロード違法化だ。その後の漫画などのオンライン海賊版の爆発的な普及を受けて、これを全著作物に拡大しようというのが今回の動きだ。
Q2 どんな行為が対象になりそうでしょうか。
A2 法案はなお議論中だが、報道される現在の内容は「侵害物のアップロードと知りながらダウンロードする行為」は、たとえ個人的な目的でも違法とされ、さらに反復・継続する行為は刑事罰の対象になるというものだ。
具体的に当てはめると、まず(1)業務目的でのコピーなどはもともと私的複製とは認められないので、従来から違法と考えられている。(2)人の著作物をネットにアップロードするような行為は、複製ではなく公衆送信なので、これももともと無許可で行えば原則違法。(3)逆に、いわゆる正規版を無断で個人的にダウンロードする行為は違法化の対象外(ただし規約違反などはあり得るので要注意)。(4)典型的な海賊版を、そうと承知でダウンロードする行為は違法。(5)たとえ海賊版でも、ダウンロードを伴わずストリーム視聴するだけならば(全くお勧めはしないが)違法化の対象外、となるだろう。
Q3 何が懸念されているのでしょうか。
A3 まずは、ネット上のコンテンツには一見して違法アップロードかどうか判断がつかないものも多い。「未成年などあまり詳しくないユーザーが、海賊版をそうと知らずにダウンロードしてしまうこともあるだろうが、それが違法では厳し過ぎないか」との懸念だ。政府の案では、侵害物と確定的に知ったうえでのダウンロードだけを違法とし、たとえ完全なる不注意だったとしても、また誤った法律判断で適法コンテンツと誤解した場合でも、対象外と整理することで懸念に対処しようとしているようだ。
また、二次創作文化が萎縮することも懸念された。例えばパロディー同人マンガを作家がネット公開している場合、同人作家との関係では“正規版”だが、原作であるネタ元との関係では違法アップロード、と言える場合が多いだろう。「そのダウンロードが違法となっては二次創作文化が萎縮する」との声だ。これも、現在政府は、刑事罰の対象から二次創作の著作物を除くとすることで対応しようとしているようだ(ただし差止などの民事的責任は残る)。
現在の最大の懸念は、「漫画や小説等の一部を保存する場合でも処罰対象なのか」という点だろう。確かに画像保存もダウンロードなので、例えばTwitterなどに漫画の一コマを載せている人がいて、それをスクショするだけでも理論上は侵害物のダウンロードには当たりそうだ。そのような手軽な行為まで対象となっては自由な情報の流通が萎縮する、という指摘だろう。
Q4 今後の注目ポイントは何でしょうか。
A4 指摘にはもっともな部分もあり、こうした懸念をできるだけ減らしつつ、いかに悪質な海賊版のダウンロードに対象を限定できるか、だろう。民事の責任・刑事罰を問わず、「他人の著作物を原作のままダウンロードし、権利者を不当に害する行為」だけに対象を絞るなどの法案修正が行われるかが鍵になる。多くの専門家も指摘するように、軽微なダウンロードでユーザーを実際に摘発することなどは非現実的だ。音楽・映像の違法ダウンロードも法改正後に現実の摘発例はない。つまり、本当に悪質な行為を違法化することでの一般への抑止力が、恐らく制度の狙いだろう。であれば、悪質なケースに対象を絞れば十分なはずだ。
海賊版の被害は深刻であり、対策は必要だ。他方で、こうした法制度はあくまで最後の手段であり、最も重要な海賊版対策は、封じ込めに向けた民間の協力体制、正規版のさらなる充実、人々の意識だろう。そうした前向きな議論が進んで行くかが注目となる。