動画アプリの「TikTok(ティックトック)」運営会社のBytedance(東京・新宿)に、「ステルスマーケティング(ステマ)」の可能性が浮上した。なぜ「ステマ問題」は繰り返し勃発するのか。ステルスマーケティングの言葉の意味、具体的な手法、違法性、問題視される理由から企業ができる対策まで、過去に日経クロストレンドに掲載した記事を基に10個のポイントにまとめた。

Bytedanceからインフルエンサーに拡散協力を依頼していたが、広告であることを明記していなかった
Bytedanceからインフルエンサーに拡散協力を依頼していたが、広告であることを明記していなかった

 Bytedanceはアプリが流行している印象を与えるために、Twitter上で多数のフォロワーを抱える「インフルエンサー」に報酬を支払い、指定のTikTok上の動画を投稿させて拡散を狙った。インフルエンサーはBytedanceから報酬を得ている旨や、広告であることを明かさず、一般の投稿を装っていた。この施策がステマに当たりそうだ。同施策は2021年12月末を持って終了したとしている。そうした手法の問題点を解説しよう。

1.ステルスマーケティングとは

 ステルスを日本語に訳すと「隠密」「こっそりした行為」という意味になる。この言葉に、企業が自らまたは第三者に依頼して、消費者に商品・サービスの宣伝と気づかれないように行う宣伝行為、すなわち「マーケティング」を組み合わせた造語だ。略して「ステマ」と呼ぶ。

 報酬を得ているにもかかわらず、あたかも公平な評価であるかのように見せかけた記事をサイトに掲載したり、一般消費者を装って好意的な感想や推薦するコメントをSNSに投稿したりするなど、宣伝であることを意図的に隠すことによってユーザーの印象を操作しようとする行為が該当する。「サクラ」や「やらせ」に近いと言える。マーケティング手法といえるものではなく、消費者を欺き、情報の信頼性を失わせる不公正な行為である。

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2.「利益提供秘匿型」と「なりすまし型」

 ステマには、「利益提供秘匿型」と「なりすまし型」との2類型があると言われる。

 利益提供秘匿型とは、第三者に金銭の支払いやその他の経済的利益を提供して掲載を依頼しているにもかかわらず、その事実を表示しない場合だ。例えば、商品やサービスを推奨する記事をインフルエンサーに報酬を支払って掲載依頼した場合は、広告であることを明示すべきだ。にもかかわらず、広告であることを明示しないケースはこれに当たる。今回のTikTokによるステマ疑惑は利益提供秘匿型に分類できる。

 一方、なりすまし型とは、第三者が中立的立場から意見を言っているように装って、実際には自分で書き込みなどをする手法。飲食店の口コミサイトで自分の店に高評価の書き込みをしたり、チラシや自社のWebサイトに創作文をあたかも実在する使用者の体験談として掲載したりするケースがこれに当たる。

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ステルスマーケティング疑惑が浮上しているBytedanceは、Z世代を中心にグローバルで人気の動画投稿アプリ「TikTok」を運営(写真/Shutterstock)
ステルスマーケティング疑惑が浮上しているBytedanceは、Z世代を中心にグローバルで人気の動画投稿アプリ「TikTok」を運営(写真/Shutterstock)

3.ステマが問題視される理由

 情報を閲覧する消費者が「第三者による中立的な立場での意見」だと認識していたにもかかわらず、実は広告だった。すると、裏切られたと感じて不信感を抱き、批判の発生につながる。それに同意する人が多ければ“炎上”になる。

 炎上が発生すると、ステマの広告の対象となった商品・サービスの信用やイメージの大幅な低下につながりかねない。広告の対象が実際に優れていたとしても、炎上から発生するマイナスイメージを覆すことは相当大変であろうことは想像に難くない。

4.ステルスマーケティングは違法なのか

 ステマには違法なものと違法にならないものがある。違法になる場合は、景品表示法に抵触する場合だ。具体的には、事業者の商品・サービスの内容または取引条件について、実際のもの、または競争事業者に係るものよりも著しく優良または有利であると一般消費者に誤認される場合に不当表示として問題となる。

 なお不当景品類及び不当表示防止法(景品表示法)について、消費者庁が公表しているガイドラインである「インターネット消費者取引に係る広告表示に関する景品表示法上の問題点及び留意事項」では、「『口コミ』情報が、当該事業者の商品・サービスの内容又は取引条件について、実際のもの又は競争事業者に係るものよりも著しく優良又は有利であると一般消費者に誤認されるものである場合には、景品表示法の不当表示として問題となる」と記載されている。

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ステマには違法なものと違法にならないものがある。景品表示法に抵触する場合、違法になる(写真/Shutterstock)
ステマには違法なものと違法にならないものがある。景品表示法に抵触する場合、違法になる(写真/Shutterstock)

5. 景表法で禁じられる「優良誤認」と「有利誤認」

 景品表示法第5条は、不当表示として「優良誤認」と「有利誤認」を禁止している。優良誤認は、商品・サービスの品質、規格などについて、同種・類似の商品・サービスを供給する他の事業者のものよりも著しく優良であると表示する場合を指す。

 一方、有利誤認は商品・サービスの価格その他の取引条件について、同種・類似の商品・サービスを供給する他の事業者のものよりも著しく優良であると表示する場合をいう。両者は、対象とするのが商品やサービスなのか、価格などの取引条件なのか、という点で対象が異なっている。

 広告宣伝にはある程度の誇張が含まれていることが通常であるため、単に優良・有利というだけでは成立せず、その程度が社会的に許容できないものに至っていると言える場合に“著しく”優良・有利であると判断されることになる。

 社会的に許容できないものに至っていると言えるかどうかは、実際にその表示で多くの一般消費者が誘引されたか否かを、商品・サービスの性質、一般消費者の知識水準や、取引の実態、表示の方法、表示の対象となる内容などの事情を踏まえて判断する。一般消費者が表示と実際が異なることをあらかじめ知っていれば、取引に誘引されることはなかったと認められるか否かが判断基準となる。

6.ステルスマーケティング炎上事例

 ステマが大々的に問題となったのは2012年。飲食店口コミサイト「食べログ」で、好意的な口コミを店舗に代わって投稿する“やらせ”営業をする代理業者が多く存在していたことが発覚した。

 16年の暮れには、医療情報サイト「WELQ」を含む、ディー・エヌ・エー(DeNA)運営の10サイトが、著作権侵害や記事内容の信ぴょう性の問題から停止に追い込まれ、キュレーションメディアの不信が広がった。

 19年12月、ウォルト・ディズニー・ジャパンの「アナと雪の女王2」のステマ騒動が注目を集めた。広告代理店などから依頼を受けた7人のWeb漫画家が、映画の感想ツイート用のハッシュタグを付けて一斉に感想漫画をSNSに投稿した際、広告やPRであることを示す表記が漏れていた。この問題を受け、ウォルト・ディズニー・ジャパンと、ステマに加担する形になった漫画家が謝罪した。

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7.業界団体の対応

 日本インタラクティブ広告協会(JIAA)は、「インターネット広告倫理綱領及び掲載基準ガイドライン」を設置。また、大手広告代理店などが加盟するWOMマーケティング協議会は「WOMJガイドライン」を設け、口コミマーケティング等についての注意事項が明確化されている。

 17年12月、「WOMJガイドライン」が5年ぶりに改定された。情報発信者とマーケティング主体の関係性について、関係性がある場合、その明示が要請されるが、マーケティング主体と共に明示すべき提供されている便益について、「#提供」や「#モニター」などの簡易なタグの使用が許容され、口コミマーケティングなどを行う際の利便性が高められた。

8.海外における規制状況

 米国では、連邦取引委員会法第5条が、不公正な競争手法、欺まん的な行為は違法であると規定しており、「金銭を受け取っていながら、公平な消費者や専門家の独立した意見であるかのように装って推奨表現をすること」がこれに当たるとしている。

 また欧州連合(EU)では、不公正取引行為指令が「不公正な取引行為は禁止されるものとする」と規定し、事業者が金銭を支払って記事を書かせておきながら、そのことを隠してその記事を販促活動に利用することを禁じている。

9.ステルスマーケティング回避のための心得

 noteプロデューサーでブロガーの徳力基彦氏は、ステマに頼らなくても良いマーケティング体制を整えるために、企業が取り組むべきポイントは3つあるとする。

(1)広告であることを隠さずに、胸を張って広告であると明示すること
 「ネット上では毎日のように企業の面白い広告やキャンペーンが話題になっている。本当に面白い広告や感動する広告であれば、広告自体が口コミで広がる時代だ。広告であることを隠す必要はなく、ステマと誤解されるリスクのほうが大きいと言える」

(2)口コミされる商品を作ること
 「ハーゲンダッツの『華もち』という商品のキャンペーンを支援したとき、そのビジュアルが注目を浴びて、発表からわずか数日で品切れになったことがあった。口コミが力を持っている時代だから、商品を作ってから無理やり口コミしてもらおうとするのではなく、最初からどうすれば口コミされるかを考えて商品やサービスを開発すべきだ。

 画期的なものや話題になるものを作ることで、消費者が積極的にSNSなどに感想をあげてくれる。今の時代はいかに自然な形で“バズらせる”かが、マーケターの腕の見せどころと言える」

(3)企業が社会の問題に立ち向かう「ブランドアクティビズムの姿勢」
 「商品やサービス単体の魅力に依存するのではなく、会社のビジョンやブランドアイデンティティーに共感してもらうアプローチが『ブランドアクティビズムの姿勢』。

 これに成功したのがヘアケアブランドの「パンテーン」だ。18年にSNSで「#1000人の就活生のホンネ」というキャンペーンを展開し、就職活動に求められているとされる容姿そのものに疑問を投げかけ、自分らしくありたいと願う女性を応援するブランド理念を打ち出した。これが就職活動をしている人たちを中心に若い女性に刺さり、話題を呼んだ」

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10.企業ができる対策

 「広告」「PR」「AD」といった表示をしておくことで、それが広告であると分かるようにしておく。JIAAは、「インターネット広告倫理綱領及び掲載基準ガイドライン」や「ネイティブ広告に関する推奨規定」を定め、広告であることの明示を推奨している。

 なお、これらを表示していなかった場合に「ステマには当たらない」などと強弁しても、それは“違法な”ステマではないという表明にすぎず、世間の納得は得られないことは肝に銘じておくべきだろう。

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