※ムック「この1冊でまるごとわかる 人工知能&IoTビジネス2018-19」掲載の記事を再構成
MaaS(Mobility as a Service:移動のサービス化)とは、「出発地から目的地への移動を最適化し、サービスとして提供する」こと。既存の交通インフラを変革するものとして、世界の自治体やさまざまな企業が参入し始めている。社会の課題解決に期待が寄せられている。
MaaSは、「クルマを『所有』から『共有』に転換し、移動を『サービス』として提供する』ことだ(図1)。米ウーバーのようなライドシェアや、タイムズ24(東京・千代田)が展開するカーシェアなどが該当するが、その概念はさらに広がっている。


フィンランドでは、スマートフォンアプリ「Whim」に出発地点と到着地点を入力すると、電車やバス、タクシーやバイクシェアなど、公営・民営を問わずさまざまな交通手段から最適な移動手段を組み合わせて提案してくれるサービスが展開されている。既存の経路検索アプリと異なる点は、予約や料金の支払いもスマートフォン上で完結できる点だ。料金は都度払いから定額料金払いまで複数のプランがあり、プランによってはタクシー運賃も含まれる。Whimの開発企業は車両も交通サービスも一切保有していない。既存のさまざまな交通サービスを連携させて、都市交通の最適化を実現した。
MaaS実現に必要な要素
WhimのようなMaaSの実現には、さまざまなサービスやデータを統合するプラットフォームが必要になる(図2)。例えば、バスや電車等の公共交通サービスと、ライドシェアやサイクルシェア等の民間サービスの連携が必須。またサービス運用に当たり、道路状況や各種交通手段の運行状況をリアルタイムに把握する必要がある。移動手段によっては前出の交通手段を管理する自治体をまたぐ可能性があるため、市町村間の連携も重要だ。さらに、事故や天候の変化など外部要因による状況変化が移動に与える影響も考慮しなければならない。これらの複合的な情報を基に、利用者のニーズに合わせた最適な移動方法を提案し、さらに予約や支払い処理もワンストップで実現することで価値を提供する。
このようなプラットフォームの構築には、データのリアルタイム収集を実現する通信技術や、収集されたビッグデータを解析してユーザーニーズとマッチングさせる人工知能といったさまざまなITが重要になる。そのため、自動車メーカーに加えてIT企業や通信事業者なども、同領域に注力し始めている。
またMaaSにより収集されたデータはモノの移動にも活用できるため、宅配事業者等も参入。特に輸送効率化とコスト削減、ドライバー不足解消といった課題の解決を目指し、自動運転車の導入に注力している。
スマートシティの基盤に
切り口の異なる取り組みとして、用途に応じてさまざまなサービスに利用可能な自動運転車のコンセプトも登場した。例えば、朝のラッシュアワーはライドシェア、午前中は宅配サービス、昼時は弁当の移動店舗、午後は移動オフィス、そして夜はまたライドシェアという具合に、時間帯や目的に応じて車両を変化させ、あらゆるリソースを効率的に運用することも可能となる。これはMaaSを基盤とした効率的な都市の姿ともいえ、スマートシティの実現に向けた取り組みと捉えることができる。
このように、MaaSは都市化や過疎化、交通渋滞や環境への対策に加え、少子高齢化や雇用問題等の社会的課題を解決し、新たなビジネスを生みだす可能性も秘めている。社会課題解決の面からは各国・自治体が、またビジネスチャンスの側面からは多くの企業が、MaaS実現に向けて高い関心を寄せている。

アーサー・ディ・リトル・ジャパン著
日経BP社 1800円
MaaSは、既存の産業構造を変革する。各国の事情によりMaaSの導入目的や普及要因が異なる上に、さまざまな業種業態が絡み合う。この複雑な市場概況を、初心者にも分かりやすく解説している。