人間の嗜好や行動は5%の顕在意識と、95%の潜在意識によって成り立っていると言われる。人は自分がその商品を買った理由の大半を、自分でも説明できない。かげこうじ事務所(東京・新宿)代表取締役でマーケター/クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏の著書「『心』が分かるとモノが売れる」には、そうした無意識下で行われる消費心理の裏側にある、顧客の心を読み解く鹿毛流のノウハウが記載されている。実務で培った鹿毛氏の発想は、実はニューロサイエンス(脳科学)でも実証されている。ニューロサイエンティストの辻本悟史氏との対談で「心のマーケティング」に科学的アプローチで迫る。
鹿毛康司(以下、鹿毛) 生活者に調査をすれば、本人が生活における課題や欲しい商品についてしゃべり、その意思がニーズとなって商品開発の方向性が明確になり、成功する。こういった手法が以前のマーケティングの主流でした。この手法は、生活者本人が自分のことを理解しているという前提です。
ですが、生活者本人は実は何も分かっていないと、僕は考えています。著書にも、人は自分のことは自分でも分からない、95%の消費行動は無意識下で行われていると書きました。僕は実務を通じた体験でそれを理解していますが、ニューロサイエンス的に本人がなぜ自分の消費行動を説明できないか教えていただけませんか。
辻本悟史(以下、辻本) 証拠は山ほどあります。ニューロサイエンスを引き合いに出すまでもなく、経済合理性が全く機能していない選択をしている人は何か違う理由があるはず。ですが、その理由をいくら聞いても、説明できるような回答が出てこないことが1つの証拠だと思います。実際に脳を見れば、知らない間に行動しているときと、考えて行動しているときは使っている脳のパーツが全然違うんです。
ニューロサイエンティスト/シックスファクター ディレクター/博士(医学)
人は「直感」と「論理」を行き来して消費している
鹿毛 例えば、洋服を買うときに自分の好きな色とか、収入に対する価格の妥当性とか、論理的に選んでいるとすれば、それは脳のどこかで考えている。でも、衝動的に買った場合は脳の違うところを使っているということでしょうか。
辻本 脳の違う部分で考えていますし、前者のケースでも実は検討を始める前に、一目見た瞬間に、直感でかなりのバイアスがかかった状態です。それに気付かずに、価格などについて考え始めます。直感と論理というものを切り替えながら、人は消費行動をしているのだと思います。
かげこうじ事務所代表/マーケター/クリエイティブディレクター
鹿毛 頭の中で直感と論理を行き来して消費行動をしている。思うのですが、マーケティングと呼ばれる手法は論理的なところですよね。
辻本 そうです。ただ、個人レベルではなく多くの場合はマスで見るので、平均にしても特定の誰かがいるわけではない。丸めたデータなので、もはや論理的思考の分析でもありません。
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