ジャパネットたかた創業者の髙田明氏は自社でテレビスタジオを作り、自らMCを買って出る自前主義で会社を成長させた。「できない理由よりできる理由を考える」が持論。自らテレビCMを作り続けたエステー執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの鹿毛康司と激論を交わした。
鹿毛 ラジオやテレビは「考査」と呼ばれる放送基準やルールという縛りがあります。あれだけ自由な番組を放送するとなった場合、メディアの人は反対しなかったのでしょうか。
髙田 もちろん今も考査を守っていますが、以前は今よりもずっと厳しい考査を受けていました。ラジオ通販を始めたころ、局に原稿を提出したところ、考査によって半分ぐらい消されてしまった。頭にきて「いい加減にしろ」とコーヒーを壁にぶちまけたこともありました。当時の担当者さんには申し訳なかったですが、私も若くて、昔はそんなことはしょっちゅうでした。
鹿毛 エステーのCM表現はなんでも許されていて、ぶっ飛んだものが作れると誤解されています。これまでテレビCMをたくさん作ってきましたが、考査はしっかり守っています。例えば、ムシューダのCMに「ムッシュ熊雄」というキャラクターがいますが、そのキャラクターがバーでたたずむシーンを入れることになりました。ですが、お酒があって、子供のぬいぐるみがいたら、子供にお酒を推奨しているような誤認になると考えました。
そこで、登場する瓶はすべてはちみつにして、バーテンダーのソムリエバッジの絵柄も蜜にしました。わずか1秒のシーンでしたが、考査との闘いのために変えました。短い時間のCMでも苦労しているのですから、番組であれだけ長い尺で自由に話すのは、大変だっただろうなという印象を受けました。
「主婦の強い味方」に待ったがかかる
髙田 「主婦の強い味方」という表現に考査がかかったことがあります。「この商品は主婦だけのものではない」というわけです。そういった議論はたくさん経験しました。社長を退任した今、客観的に番組を見て、この喋りは大丈夫だろうかと思うことも時々ありますが(笑)、この10年、15年の積み重ねでジャパネットたかたなら、という信頼を作れた証しだと思います。
鹿毛 エステーのCMに対するクレームはこれまでほとんどありませんし、かなり吟味していることを知ってくれているテレビ局さんも増えてきました。そうすると局さんへの説明もかなりスムーズにいきます。一度、違う会社のテレビCMの制作を手伝ったところ、必要以上に考査が厳しかった。
髙田 考査する人の感覚にもよりますね。米国などでは喋った人の自己責任ですが、日本は放送局に責任がありますからね。
ラジオ通販を始めたころは、局にご迷惑をかけないよう、とにかくクレームを出さないように心掛けました。長崎が本社の会社ですから、消費者心理としてアフターケアに対する不安があったと思います。そのため、当時取り扱う商品は基本的に国内メーカーのものにして、何かトラブルがあれば、全て新品と交換していました。結果、クレームはほとんど受けませんでした。それは局への責任を果たす意味合いもありました。
鹿毛 過去と違う手法を取り入れるのは非常に労力が必要です。10年以上前の2006年の話になりますが、スポンサーをしている月9でテレビCMを放送する際、毎回ドラマを見ている視聴者に向けて、CMも毎回違う内容を放送しようと考えました。
テレビCMは繰り返し放送して、刷り込むことが重要だと社外の関係者に反対されましたが、これを実施したところ大当たり。売り上げは倍になり、どのテレビCMも1回ずつしか放送していないにも関わらず、好感度ランキング(CM総合研究所調査)でその複数のCMが上位に入りました。
ところで、テレビショッピングでは、放送中にスタジオに売り上げがリアルタイムで表示されますよね。それはプレッシャーにならないのでしょうか。
髙田 喋っているときにコールの状況や利益がリアルタイムで見える。プレッシャーになることもあるかもしれませんが、目標があって、お客様の反響がわかるからこそ楽しいのかもしれないですね。
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