生活者を「ターゲット」と呼ぶのはやめるべきだ。コミュニケーション・ディレクターの佐藤尚之氏は2008年からそんな考えを提唱してきたという。ファンベースが重要になる時代、情報を伝えるべき相手を尊重することがマーケターには求められる。エステー執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの鹿毛康司が、ファンベースを成功させるためのポイントに迫った。
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鹿毛康司(以下、鹿毛) 多くのマーケターは伝える人をターゲット、言い換えれば餌食と言っています。僕はターゲットという言葉を使うのはやめようと思っています。
佐藤尚之(以下、佐藤) ターゲットはやめましょうは08年頃から僕も言っています。それは戦争用語です。囲い込むとか、刈り取るという言葉も基本使いません。それではファンベースはできません。
鹿毛 ですが、ファンベースは囲い込み策だと思われています。
佐藤 生活者をそう見ている時点で誤っています。
鹿毛 まずは人として見ようということですね。
佐藤 そうですね。それは、直接「ありがとう」と言われるような経験をしていないと、なかなか見えづらいことだと思います。
鹿毛 かつて、食品会社に勤めていた時に事故が起きた。その時に顧客から手紙をもらいました。その手紙には、
「私は御社が大嫌い。だけど応援しています。私に子供ができた、幸せな家庭ができた。母は貧乏ながら女手ひとつで育ててくれたが、母乳がでない。その時、一番高い粉ミルクが御社の商品だった。御社のブランドは母の愛そのものだった。母の人生を否定したくないから、頑張ってください」
と、書いてありました。ブランドステートメントとかお決まりのブランド論を学んできましたが、僕はそのたった1人のお客さんに返事が書けませんでした。目の前の人の生活とか生きざまを見ずに、ブランド論を語る資格はないということを強く感じました。
ですから、ファンベースの価値観は僕の心にはすっと入ってきます。ただ、このファンベースについて、多くのマーケターには説明が難しい。
佐藤 伝えたい人のことをよく知ってモノを伝えていくのは基本的なこと。ですが、それはマスマーケティング時代には効率が勝ってしまいできなかった。そうじゃないだろうということを、入り口から書いたのがファンベースだと思っています。100万人に伝えるより、目の前の100人を大事にして、100人から100人、また100人と伝わって100万人になる。それが大事かと。しかも、人は多様な人と付き合っているようにみえて、実は自分と似た人としかつきあっていないわけです。類を友を呼ぶ、とか、似た者同士という言葉ですね。類友が愛用しているものは、自分も好きになるみたいな同質性を伴って伝わっていく。
鹿毛 それは口コミですか。
佐藤 正しい意味での口コミですね。拡散は口コミではないと思っています。拡散して単なる露出を増やしてもそれほど意味はありません。
鹿毛 実はアンバサダーのような企画を始めようと思っていると(エステーの)社長に伝えたら、そういうこともやっていかないといけないと後押ししてくれました。ですが、今後、売り上げにどう影響するのかと必ず言われるはずなので、それを説明しなければなりません。
僕は不幸中の幸いだが、役員という立場なので、思ってることを言いやすいし、お膳立てができます。ですが、ファンベースを企業が導入しようとするときに、中間ぐらいの役職の人が上に提案するにはKPI(重要業績評価指標)や、何人に拡散するといった目標を伝えなければ実行できません。
佐藤 中間の役職から上げるのは難しいですね。その場合、施策単体ではなく2割のファンが売り上げの多くを担っている(パレートの法則)をデータで立証する。そして、日本の市場は急激に縮小していく、などのロジカルな背景説明が必要だと思います。
佐藤氏の考えるファンベースの利点とは
鹿毛 ファンベースの良さをシンプルに伝えるとするとどう言い表せますか。
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