SNSで120万人超のフォロワーを持ち、若年女性の憧れの存在として支持を集める“ゆうこす”こと菅本裕子氏は、SNSが若者の挑戦の足かせになっていると指摘する。SNSが自由に使える時代が「インフルエンサー」という職を生んだ。にもかかわらず、そのツールが逆に若者を縛り付けているという。なぜなのか。

鹿毛康司(以下、鹿毛) アイドルを辞めてSNSで声を上げて成功できた人はそう多くはありません。
菅本裕子氏(以下、菅本) 芸能の世界にいる方のなかに、本気でSNSを運用する人は少ないです。なぜなら、本格的に運用すると世間からは「堕ちた」といった目で見られがちだからです。私も親戚の集まりなどで今の仕事を聞かれて「インフルエンサー」と答えると、「もっとちゃんとした仕事をしなさい」といったことを言われることも少なくありません。
事務所としてもタレントのSNS利用に対して、怖いと感じる面もあると思います。芸能事務所の従業員は芸能のノウハウは持っていても、物心ついた頃からSNSが身近にある私たちの世代と比べてSNS利用のノウハウは持っていません。所属するタレントのほうがSNSについて詳しいことも珍しくありません。つまり、芸能事務所はSNSについてタレントに教えることができない。(SHOWROOMなどで流行の)生配信の動画ではマネジメントが及ばず、何を言うか分からない。それによってイメージが落ちるのではないか、という危機感が先行してしまっています。
でも、私は人は行動をする人に引かれると思っています。むしろ、リスクを恐れて行動しないことのほうがリスクだと思います。私が最も強いと思う人は「失敗を成功に変えられる人」です。

ゆうこすにとって最大の失敗
鹿毛 菅本さんにとって最大の失敗とはなんでしょうか。
菅本 最大の失敗は、アイドルを辞めたときに根も葉もない噂で炎上してしまったことでしょうか。その後、自分自身を男性向けに売ろうとして「お料理アイドル」を目指したことも一時期ありましたが、その頃のイベントにはたったの3人しかファンが来てくれませんでした。そういったポジションの選択も失敗の1つです。
でも、失敗もすべて自分の責任です。むしろ、私は失敗したほうがいいと思っています。SNSのフォロワー数だけを気にする人がいますが、単にフォロワーが多いことは意味を持ちません。まずフォローしてもらう、これが一番のハードルです。そこからこの人のツイートを見続けたい、応援したいと思ってもらえるところまで持っていくことがSNSを使う意味です。
どれだけコアなファンを作れるか。それには旗を振りかざすことです。大きな目標を掲げ、その目標に向かう過程では当然、失敗もする。成功も失敗も包み隠さずにフォロワーに見せることでストーリーに変わり、やがて応援したい気持ちを生み出していきます。

ですが、今は若い子たちのほうが挑戦できなくなっている。そこにもSNSが大きく関係していると思います。
鹿毛 なぜ、そう思いますか。むしろ自由にSNSを利用できる環境が整っていますよね。
菅本 今の若い子の多くがスクールカーストを調整するためにSNSを使っているからです。クラスの人気者でいたいからおしゃれな店に行くとか、おいしそうな料理の写真を撮るとか、自分のプロフィルをいかに充実させるかという目的で使っている子が多い。私も高校時代はこの写真をアップしたら周りから変だと思われないかなとか、そういったことばかりを考えていて閉塞感がありました。
「コミュニティーのSNS」知らぬ若者
「mixi」や「Facebook」といったSNSが誕生したとき、人と人が国や世代を超えて出会えることに感動を覚えた人が多いのではないでしょうか。私はこれを「コミュニティーのSNS」と呼んでいます。それが徐々に人とつながり過ぎることに疲れてしまった。次に人のつながりより、個人による情報発信が中心となったTwitterやInstagramといったSNSが人気を集めました。こちらは「個人のSNS」と呼んでいます。
今の若い子はコミュニティーのSNSの経験がなく、個人のSNSしか利用したことがありません。行動をするという行為は応援してくれる友人、戻れる居場所があってできること。つまりコミュニティーが重要ですが、個人のSNSしか使っていないと人の目ばかりを気にして、なるべく“普通”でいようとしてしまいます。ですから、挑戦できなくなっていると感じます。
鹿毛 最近は若い子の間で(音楽に合わせて口パクの動画を撮影する)動画SNS「TikTok」がはやっていますが、あれもスクールカーストの調整に影響していると思いますか。
菅本 TikTokのうまいところは曲の指定があり、みんなが同じ曲を歌うところです。その曲でみんなで歌ったり、踊ってみたりすることを口実に、かわいい自撮りを上げやすくなりました。ある意味「口実SNS」とも言えるかもしれません。
そのためTikTokは“自撮り大会”になってしまっていて、応援したいとかそういう熱量が生まれにくいサービスだと感じます。単発的な動画が多く投稿されており、ストーリーになりづらいことがその要因だと思います。
鹿毛 先ほど目標を掲げることが応援をしてもらうには重要だと仰っていましたが、企業が「売り上げを2倍にしたいので応援してください」と言っても、おそらく支持は得られませんよね。菅本さんを応援してくれるファンとの違いはどこにあるのでしょうか。
菅本 目標の作り方は難しいですね。企業の方を対象としたSNS活用の講演会で話した後によく「フォロワーはどうやったら増えますか?」と聞かれます。なぜ、増やしたいんですか?と聞き返すと、一番多い回答が「分からない」、次に「上司に増やせと言われた」です。

仮に道を歩いていたとして、知らない人から「上司に増やせと言われたので、フォロワーになってください」と言われたらどう感じるでしょうか。バーチャルの世界ではそれが分からなくなっている人が多い印象です。こうした勘違いを起こさないためには、コアなフォロワーと対話することが重要です。自分のどういうところを応援してくれているのか、何を楽しみにしてくれているのか。コアなファンと対話して、それを知る必要があります。
鹿毛 ファンとの信頼を大切にされているんですね。
菅本 自分のことを応援してくれることを大切にする。当たり前のことかもしれませんが、それは私がアイドルとニートの両方を経験したからこそ、鮮明に思い続けられることだと思います。
アイドル時代にはたくさんのファンがいて、毎日ライブを見に劇場に足を運んでくれました。ところが、脱退した瞬間に3人しか来てくれなくなりました。(劇場に来ていた多くの)あの人たちはファンだったのだろうか、そう悩むこともありました。ですが、3人のお客さんを見て、初めて一人ひとりの顔を見ることができました。アイドルじゃなくても応援してくれる人がいれば生きていける。数じゃないということを学びました。
私のことをそれほど知らないけれどSNSでフォローしてくれている100万人と、良いところも悪いところも全部知って、それでも支持してくれる50人。私は後者を大切にしたほうが幸福度も高いし、仕事も良い方向に回っていくと思います。
(写真/山田愼二)
モテクリエイター・菅本裕子(“ゆうこす”)氏が日経クロストレンド EXPO 2018に登壇

日時 11月29日(木) 16:30~17:10
会場 東京国際フォーラム(東京・有楽町)
<申し込みはこちら>
エステー執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏が日経クロストレンド EXPO 2018に登壇

日時 11月28日(水) 16:10~17:30
会場 東京国際フォーラム(東京・有楽町)
<申し込みはこちら>