インフルエンサー“ゆうこす”として引く手あまたの菅本裕子氏。「自分」という商品をSNSを使い世の中に広めた経験から「SNSをやるだけでマーケターになれる」と菅本氏は笑う。しかし、菅本氏のように「SNSをやる」ことは至難の業だ。なぜ、ゆうこすは売れたのか。エステー執行役の鹿毛康司氏がその理由に迫る。

鹿毛康司(以下、鹿毛) 菅本さんは「マーケティングの3C」という言葉を聞いたことがありますか?
菅本裕子氏(以下、菅本) 聞いたことがないですね。勘で言っていいですか? まず、顧客を表す「Customer」、その次は「Communication」でしょうか。
鹿毛 惜しい。菅本さんの仰ったCustomer、自社を表す「Company」、そして競合を表す「Competitor」の3つです。
菅本 (SNSに例えれば)私がCompanyで、SNSのフォロワーがCustomer、その他のインフルエンサーがCompetitorということでしょうか。
鹿毛 その通りです。マーケティング戦略を立案するうえで、これら3つのCを分析する手法を「3C分析」と呼び、古くから重宝されてきました。意識的ではないかもしれませんが、菅本さんはこの3C分析をしっかりとやられている。過去のインタビュー記事や著書を読んで、そんな印象を受けました。菅本さんは、さまざまなSNSの特性を理解するうえで、どのようなことに取り組んでいますか。
菅本 1つ目は自分がヘビーユーザーになって、利用している人たちの気持ちを知ることが必要です。次にそれぞれのSNSの世界にいるスターを見ます。YouTubeなら、はじめしゃちょーさんやHIKAKINさんですね。スターを見ることで、ユーザーの立場に立って、その世界のことをよく理解できます。そうして、各SNSでできることを片っ端から知ることが重要です。

意外とこれをできない人が多い。例えば、コーディネートの動画を撮って、(Instagramの長時間動画投稿機能)「IGTV」に投稿したとします。このとき、「動画ならYouTubeでいいじゃないか」と指摘する人がいますが、そういう人は全く分かっていません。全身を映すコーディネート動画を投稿するには、縦型の動画が基本のIGTVのほうが適しています。
他にも、Instagramのストーリーズは画面の右側をタップすると次の動画に進んで、画面の左側をタップすると1つ戻りますが、このときに画面を長押ししてみたらどうなるのだろう、ストーリーズの動画をDM(ダイレクトメール)で送ってみたらどうなるのだろう、あるいはDMで送る時にハッシュタグを付けたらどうなるのだろう。そんなことを考えながら、もうすべてを使ってみています。こうしたSNSの特性をきちんと理解しなければ使いこなすことはできません。
「何で?」の積み重ねで仮説を生む
鹿毛 スターを見て、どのようにして学んでいますか。
菅本 とにかく「何で?」と自分の中で問いかけるようにしています。HIKAKINさんは何で動画の背景にぬいぐるみを並べているのか、この動画は何で低評価なのか、Instagramのライブ動画配信には何で女性が多く集まるのか。何でを積み重ねることで、仮説が生まれます。この仮説を自分自身で実行して分析することで、PDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを回せます。
それをできるのはアイドルを辞めて、ニートになった失敗時期からSNSを使っていたからだと思っています。SNSは何万人の前に立っているのと同じことです。その何万人のオーディエンスの反応が数字にすべて跳ね返る。全然ダメな動画ばかり配信していて、見返すと恥ずかしい動画も多いのですが、それも数字ではっきりと分かり、改善を積み重ねることができる。「SNSをやるだけでマーケターになれる」。私はそう思います。

鹿毛 菅本さんはSNSを使ううえで「自分を見つめる」ことで、自身の強みを見つけようとしたと仰っています。それは3C分析で言う、Company分析に当たります。
菅本 SNSでは嘘というのはすぐにバレてしまいます。一方で、熱量がとても伝わりやすい特徴もあります。20歳を超えてから、将来性やお金のことを優先的に考えてしまっていました。それを一度なくし、頭の中をフラットにして、最も熱量を持てることはなんだろう、たとえお金をもらわなくてもやりたいことは何だろうと考えました。
鹿毛 自分を見つめ直すきっかけとして、所属していたアイドルグループHKT48を辞めた後に「地獄を見た」ことを挙げています※。

菅本 (臆測で語られることが)我慢できずにYouTubeやTwitterの利用を始めました。私が反論する方法はそれしかなかったからです。でも、当時は世の中で言われていることを否定するなどネガティブな話ばかり投稿していて、将来につながる話はしていませんでした。ネガティブな話をしても、そこに集まるのはやじ馬のような、SNSで“荒らし”と呼ばれるようなコメントばかりでした。
SNSがなければ声を上げられなかった
鹿毛 僕は前職で大規模な不祥事を経験しました。世間からの激しい批判にさらされるなか、おわびの広告を掲載しました。当時、報道の大半は事実と異なる内容でした。ですが、あくまで批判されているのは企業です。それに比べて、菅本さんは個人でその批判を受け止めていました。
菅本 私は企業の不祥事の経験がありませんので比較は難しいのですが、個人のほうが楽だと思います。企業では発信したい情報があっても、すべて社内での判断が必要になるため対応が遅れがちです。一方、個人の場合は自分責任で、自分の思いをそのまま口に出せる。企業のSNSは「人が見えにくい」とよく言われます。個人だからこそ、良かったと思います。
鹿毛 当時、SNSを見て回ることしかできなかった?
菅本 それしかできなかった。でも、SNSがあって良かったと思います。芸能界を離れた私が声を上げるということは、SNSがなければできなかったことですから。
(写真/山田愼二)
モテクリエイター・菅本裕子(“ゆうこす”)氏が日経クロストレンド EXPO 2018に登壇

日時 11月29日(木) 16:30~17:10
会場 東京国際フォーラム(東京・有楽町)
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エステー執行役エグゼクティブ・クリエイティブディレクターの鹿毛康司氏が日経クロストレンド EXPO 2018に登壇

日時 11月28日(水) 16:10~17:30
会場 東京国際フォーラム(東京・有楽町)
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