丸紅は、従来のプロダクトアウト型から需要起点のアプローチへと意識改革する手法として、デザイン思考を活用。社員が内発的動機を高め、経営の視点を持って変化する必要性を自分ごと化し、全社で商社の未来戦略を構想する。

米エンリティック社と事業化した「AI技術を活用した画像診断システム」の初期事業プロトタイプ
米エンリティック社と事業化した「AI技術を活用した画像診断システム」の初期事業プロトタイプ

今回のテーマ:経営変革をボトムアップで加速させる戦略デザイン

解説編

●変革のための戦略デザインのポイント
・経営視点での変革の必要性を社員が自分ごと化し、内発的動機を高めていく
・ボトムアップで集めた現場の知を俯瞰(ふかん)・統合し、全体の未来戦略を構想
・組織の課題を見いだし、実験的に取り組むことで、組織体制の変革につなげる

 AIやIoTをはじめとするデジタルテクノロジーの進化により、さまざまな業界のサプライチェーンとバリューチェーンの再構築が次々と起こっています。丸紅はその変化に対応すべく2016年にIoT・ビッグデータ推進委員会を立ち上げました。

Step1:実践者コミュニティーづくり

 今回のプロジェクトには、石油や鉱山などの資源から一般消費者向けのライフスタイル事業まで、規模もビジネスモデルも異なる18営業本部(当時)から36人が参加しました。

 そこで、まずは各自が日ごろ感じている社会情勢の変化や関心の高いデジタルテクノロジー関連のトレンド、商社としての課題や将来への可能性などを共有し、議論することから始めました。

 また、シンギュラリティ大学をはじめとするさまざまな有識者を招き、参加者に社会の最先端の変化に関する知識を与えることで、外部環境の変化や危機感についての自分ごと化をショック療法的に進めていきました。

 新たなことにチャレンジしていく際には、個人の熱量や主体性なしでは活動が続きません。なので、プログラムの前半では参加者の内発的動機を高めながら、個人の気持ちに火を付けるための土壌造りに時間を割きました。

Step2:データ×顧客での事業機会探索

 総合商社は、事業会社も含め多様で幅広い分野・業界のデータ資産を持っていることが強みの1つです。そこで各事業部が持つデータ資産を抽出・可視化し、それらを自由に組み替えながら、顧客視点での課題と掛け合わせていくことで、データがかつての石油のようなビジネスの主たる資源的な存在になっていくという、IoTの時代における新たな事業機会を探索しました。

 発想したアイデアを、事業性、技術的実現性、顧客価値の3つの観点から詰めていき、プロトタイピングを行うことで構想を具体化していきました。

 従来のサプライヤー視点での発想から脱却するため、顧客へのインタビューを通して、潜在的なニーズや課題からアイデアを着想しました。また答えの見えない中でプロトタイプをつくりながら前に進んでいく探索型プロセスを採用しました。

 参加者にとっては慣れないデザイン思考型のアプローチでしたが、苦労した分、ユニークな切り口のアイデアが生まれました。いくつかのアイデアを翌年以降の実証実験や事業化に進めることになりました。

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