いかんせん書籍編集が初めてなもので、書籍タイトルの決め方ひとつとっても学びがあったのです。音部大輔さんの新刊『マーケティングの扉 経験を知識に変える一問一答』ができる過程を追う「河村編集中」。今回は、あんなことやこんなことがあった「タイトル決め」の現場をリポート。タイトル案には、各人のキャラクターがにじみ出ていて面白いです。笑

 本日も編集中です。

 タイトルって大事ですよね。『マーケティングの扉 経験を知識に変える一問一答』になるまでに、一体いくつの案がボツとなり、最終案の糧となっていったことか……(いくつの案が挙がったか、数えてないです)。

▼前回の記事 音部氏×新人記者 新刊完成までの裏側をリポします! 河村編集中#1

 河村が一番最初に考えた案はこの2つでした。
・私が飛べる豚になるまで ~マーケター音部大輔から君へ~
・こうして私はマーケターになった 音部大輔から君へ

 豚。この案を発表したとき、音部さんに「???」という反応されました! ですよね~今考えると自分でもやばいなと思います! でも一応ちゃんと理由があったんです。

「それなりに覚悟を持って開けてねのイメージ」もありましたが、ぜんぜん軽い気持ちでも読んでください
「それなりに覚悟を持って開けてねのイメージ」もありましたが、ぜんぜん軽い気持ちでも読んでください

 昨年の11月ごろ、キックオフ会と称して音部さんと編集チームで飲む機会がありました。そこでどこからともなく「飛ばねぇ豚はただの豚だ」の話になりました。これは宮崎駿監督のジブリ作品『紅の豚』に出てくる有名なセリフです。

 「日本映画作品の金字塔のひとつ」と語るほど、音部さんは紅の豚が大好きだそう。かつて若手マーケター向けの講義を行った際に、このセリフを用いた課題を出したことがあるそうです。

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 「『飛ばねぇ豚はただの豚だ』を英訳してみてください」

 プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)など外資系企業に勤めている人にとっては簡単なのでは?と思いますが、それがこの課題の肝。以下、音部さんの解説。

 「豚だの飛ぶだのという基本的な単語は誰も辞書を引かない。でも、いざ辞書を引いてみると『Pig might fly. 』ということわざがあることを知ることになる。これは『そんなことありえないよ』といった意味だ。このことわざを知っていたら、A pig that doesn’t fly is just a pig.などという直訳をする人は出てこないだろう。分かっていると思っていることでも、意外な発見があるかもしれないから念のため調べておこう」

 「Pig might fly=ありえない=飛ぶ豚」と、宮崎駿監督がこのことわざを知っていて「飛ばねぇ豚はただの豚だ」が生まれたのか、定かではありません。しかし、簡単な単語でも調べてみると意外な発見があり、うまい言い回しができることがあるかもしれない。マーケティングを考えるうえでも、初歩的と思っていたことに施策を磨く大きなヒントがあるかもしれない、という教訓ですね。

 と、こんな話をしていたので、タイトル案に豚が出てきました。1項このエピソードについて触れるものがあれば、こんなタイトルもありか?と話していた気がしたんですけどね、にしてもまあ違いますね。幻の豚案でした。

 他にも大ベテラン酒井さんからはこんな案が。
・人間理解 マーケティングを生き抜くための88の座標
・人間理解 マーケティングを生きるあなたへ

 本書『マーケティングの扉』は、具体的なノウハウもありますが、音部さんの経験を基にしたマーケティングへの視点やキャリア論、そして人生への洞察がコアになっています。何より「人間理解」は音部さんの書籍や会話の中でよく登場する、マーケティングの本質を表す重要なキーワードです。この本は、マーケティングの本ですが、突き詰めれば人間を理解するための鍵をこれから人生を歩む読者に授けようという思いもあります。そのため、「生きる」「あなたへ」といったワードも盛り込まれています。

 ちなみに「88」は、88項で構成していることを指していますが、「星座の数が88あるので、位置を示す『座標』という言葉とリンクさせたかった」(酒井さん)そうです。ロマン……。実はこの段階で、収録する質問は88もありませんでした(半分くらいだったかな?)。それが最終的に本当に88になったのは、たぶん運命ですね! この本を読んでくださる方々は、星を読みし者たちです(?)。

 河村の案も含め、ごりごりのビジネス本というよりはちょっと人間味がある感じだよね~「人間」がいる本だよね~となっていたんですね。でもやっぱりこの本を読むことでどういったスキルが得られるのか、誰に読んでほしいのか、ベネフィットと対象を明確にしたい! と、考えを展開していきました。

 そしてここで登場するのが、編集者の陰山祐一さん。陰山さんは、この書籍の元連載「音部で『壁打ち』」を企画した方。いうなればこの本の根の根まで知っている、私にとってまじで頼れる兄貴です。

会議メモ。おっさん……?
会議メモ。おっさん……?

 「音部さんがよくおっしゃっている『経験を知識に変える』『昨日できなかったことが明日できるようになる』は、ベネフィットとして大きいのでは」と陰山さん。なるほどすぎて、そこから一気にタイトルが決まっていきました。

 この本を読むと、経験が知識に変わります(ベネフィット)。「扉」で学びの入り口、第一歩を踏み出す人のイメージを想起してもらい(対象)、さらに、一問一答で簡潔に読めることも明示して。

 こうしてタイトルは『マーケティングの扉 経験を知識に変える一問一答』になりました!

 こんなアイデアもありました。
・マーケティングとキャリアのFood for Thought(思考の種)
・マーケティング・ビュッフェ MARKETING's FOOD FOR THOUGHT

 あともう一つ面白かったのが、章立てについて。最終的に「マーケティングの扉」「キャリアの扉」「戦略の扉」「リーダーの扉」「スキルの扉」の5章になったんですが、めちゃ初期は、「太陽の章」「月の章」「木漏れ日の章」でした。

 太陽の章は、昼間戦闘モードで仕事するぜ、というときに読んでもらうような、マーケ手法など実践的な話を、月の章は、ひとり人生について考えるような落ち着いた時間に読んでもらいたい、これまでやこれからの話を。木漏れ日は、これから芽を出して未来のマーケターとして羽ばたいていく若者に、優しい光を照らすイメージ……という感じでした。ロマン……。いつかまた書籍をつくることがあったら、使わせていただきたいです酒井さん。

 なんか今日は真面目になっちゃったー。

音部さん豆知識

音部さんが好きなジブリ映画トップ3は
1.紅の豚 2.風の谷のナウシカ 3.ルパン三世 カリオストロの城

(ちなみに河村は、となりのトトロ、コクリコ坂から、風立ちぬ)

『マーケティングの扉』発売まであと20

書名:『マーケティングの扉 経験を知識に変える一問一答』(日経BP)
著者:音部 大輔
定価:1980円(税込み)
発売日:2023年4月20日

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