複数の企業がマーケティング業務をAI(人工知能)で支援するサービスを始めている。AIは人の仕事を奪うのか、それとも人の能力を強化するのか。もしマーケティング業務向けのAIが、人間としての思考に集中できる環境を用意してくれれば、マーケターは改めてその資質を問われるだろう。

蒸気機関が人の働き方を変えたように、AIはマーケターの頭脳労働を変える(c)Shutterstock
蒸気機関が人の働き方を変えたように、AIはマーケターの頭脳労働を変える(c)Shutterstock

 デジタル技術の発展が個々人の影響力を強化しているのは、SNSが個人の発信力を強化したことなどからも理解できる。言うまでもなく、これはデジタル技術に限ったことではない。蒸気機関や内燃機関、電動化技術は人間の筋肉の能力を“拡張”した。同様のことが頭脳労働にも起こる。

 今までのマーケティングにおけるデジタル化が、効率化ではなく、むしろ作業量の増加を促してきたことに幻滅するマーケティングリーダーは少なくない。AIが活用されることで、そもそも想像し期待していた本当の「マーケティング活動のデジタル化」が始まった。大戦期の戦車を運用するには5人の要員が必要だったのに、技術の進歩が3人乗りに変えていった。同じように、ブランド当たりに必要な人員の数は減っていくだろう。

従来以上にマーケターの優劣が結果に影響

 必要なマーケターの数が減ることで人件費が安くなる、という直接的な効果だけが見込まれるわけではない。1人当たりの運用能力が上がり、それぞれのマーケターの優劣が、今まで以上に顕著にビジネス結果につながることを意味する。技術はマーケターの能力に係数として作用する。そしてマーケター自身も、マーケティング予算や時間などブランドが投下する資源に係数として機能する。

 優秀なマーケターが使う10億円のマーケティング予算と、そうでもないマーケターが使う10億円のマーケティング予算では、その威力に大きな差が出る。この差を、技術革新はさらに広げることになる。経験の不足を技術が補ってくれて有利な競争環境を提供してくれることもあるだろう。ただし、それは競合相手が技術の恩恵に預かれない場合に限られる。

 技術は計測能力の強化、大規模なデータの運用とそれらを統合管理するAIの進化によって、効果予測の確度を向上させ、各種マーケティングプログラムの精度を自動補正していく。現場での施策設計やプラン運用の分野では、勘と経験に基づいた活動は廃れていくと思われる。

 何を正しい目的とし、どのような資源をどう組み合わせるのかといった、マーケティング戦略立案のマーケター間の能力差はデジタル技術で拡大していく。再現性と経験値の収集にたけ、人材育成を正しく実現できる企業に成長機会が増えるだろう。

いい戦闘機乗りの定義は時代とともに変化している

 いい戦闘機乗りをどのように定義するか。この問いに対して、冷戦期の戦闘機パイロットと、現代の戦闘機パイロットそれぞれがどのように考えているか、の違いを知る機会があった。各兵科が密接に連携していなかった時代では、パイロット個々の飛行技術や戦技が最も重要な要素と認識されていたようだ。対して、各兵器間の連携が前提となっている現代では、そのネットワークをうまく使う技術が最重要であると認識されているらしい。

 この差は、マーケティング手法を違えるマーケター間にも適用できる差だと思われる。消費者行動を理解するためのデータと、メッセージの配信データがうまく連携したり、クローズドループのように同一のデータベースを利用したりできれば、マーケティング活動の精度を改善できるのは自明だ。

 時代と環境によっていい戦闘機パイロットの要件が変わるように、複数のマーケティング活動を統合する必要がある環境下で活動間の「連携」を意識するマーケターと、一発のテレビ広告にかけるマーケターでは、必要とされる技術はおのずと異なる。一部の天才的なマーケターを除けば、前者の方が投下資源が相対的に大きくなる分だけ成功率は高くなるだろう。

 効率的な連携のためには、何がしかハブなり参照点なりが必要となるが、消費者を中心に考えることが推奨される。社内外に最も正統性を主張しやすく、大義にも通じやすい。最終的に自社売り上げや利益をもたらしてくれるのは消費者である。消費者の満足のためにブランドがあり、ブランドのベネフィットを具現化するために製品が存在するのだ。企業によっては製品にハブを担わせることもあれば、自社ブランドや創業者本人のカリスマ性が中核となることもあるだろう。それぞれに利点もあるが、欠点もありそうだ。

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