消費者が製品を欲しいと思うのは、その性能ではなく得られるベネフィット(便益)による。あまり知られていないが、そのベネフィットを最大限に発揮させる経験則がある。例えばオムツは、「赤ちゃんが機嫌良く、愛想良くいられる」製品が選ばれるだろう。それはつまりどういうことだろうか──。

逆三角形の3つの点を見て顔を連想する現象は「シミュラクラ現象」という(c)Shutterstock
逆三角形の3つの点を見て顔を連想する現象は「シミュラクラ現象」という(c)Shutterstock

 ブランドが立脚すべきは製品やサービスの機能や性能というよりも、それらを通して提供されるベネフィットである。以前よりも浸透してきた概念であるのは素晴らしい。そして、ベネフィットを伝える際には感情と関連していると受け入れやすく、記憶に残りやすい。

 あまり知られていないことであるけれど、ベネフィットで感情を喚起する際に忘れるべきではない重要な経験則がある。一般的に、人と人の関係の変化を見せることは聴衆の感情を大きく揺さぶる。ブランドの機能や性能をもって人と人の関係にポジティブな変化にもたらすことができれば、感情の喚起と共にベネフィットを示すことになる。われわれは消費者である以前に人間で、人間は人の間にある。

消費者の感情は他者との関係の中で大きく動く

 人の行動は理性だけではなく、多分に感情的な理由に帰着することが少なくない。感情の起伏や作用にはいろいろな考え方があるが、マーケティングやブランディングにおいて覚えておくべきことは、「消費者の感情は他者との関係の中で大きく動く」ということである。

 われわれが消費する消費財やサービスのほとんどは、無人島で1人で生活していたら不要なものばかりだ。自身の消費を振り返ったとき、他者やコミュニティーを意識しない消費はどれほどあるだろう。多分、ほとんどない。普段はあまり認識しないかもしれないが、家族や会社の同僚、電車で乗り合わせたり街ですれ違ったりする見知らぬ人たちの存在、学校や趣味のサークルといったコミュニティーに帰属していることが買い物に大きな影響を与えている。

 一部の衣食住など、個体の物理的な生命維持に不可欠な物品・サービス以外は、われわれは他者やコミュニティーを前提としてものを買い、サービスを消費する。そして、他者を必要とせず物性のみに依存するのであれば、固有の意味をまとったブランドである必要性は低い。品質保証として機能するだけである。

 人間は人間に興味がある。ひょっとすると、根本的には人間にしか興味がないのかもしれない。そしてその感情の動き方にもことさら大きな関心を持っているように思われる。これは社会的な動物であることの本能に起因するのかもしれない。

消費者とブランドの関係は1:1なのか

 心理学に「パレイドリア」とか「シミュラクラ現象」といった概念がある。岩の中に顔を見いだすといった脳の解釈作用についての概念で、特にシミュラクラ現象は逆三角形の3つの点を見て顔を連想する現象を指す。(^o^) こういうことだ。顔文字もシミュラクラ現象の利用である。顔は最も直接的に感情を表現する部位であるから、人間にとっての他者の感情変化を理解し、関係を意識することの重要さを示唆していると思われる。

 「消費者は他者との関係の中で物やサービスを消費する」ということは、言及されれば極めて当然のことと理解できるが、普段から意識することは少ない。逆に言えば、この点を意識することで競合マーケターに対してアドバンテージを持てるかもしれない。消費者理解をするための重要な視点を持てるし、魅力的で競争力のあるベネフィットを開発できる可能性が高まる。

 多くのマーケターは消費者とブランドを閉鎖した1:1の関係で理解しようとする。ユーザー対ブランド、ノンユーザー対ブランド、競合ユーザー対ブランド、といった具合だ。これらの関係がたくさん集まり、集合としての消費者と向き合っていても、それらの関係はあくまで1:1をたくさん束ねているにすぎない。

 もちろん、この方針でうまくいくこともある。それぞれの消費者を徹底的かつ包括的に理解する能力があれば、個々の消費者が帰属する社会や他者との関係性が透けて見えてくるはずだからである。ただ、そのレベルまで消費者理解を熟達できているマーケターは多くない。熟達には時間がかかるものなのだ。幸い、われわれは1つのヒントを手に入れた。「消費者は他者との関係性の中で物やサービスを消費する」というシンプルな概念を知っておくことで、消費者理解のレベルを簡単に引き上げられる。

 「その消費者は、どの他者やどのコミュニティーとどのような関係を築く際にどういった不便や課題を感じていて、ブランドはいかにその関係や関係の度合いを改善できるのか」を意識すればいい。消費者対ブランドの1:1の関係だけでは見えにくかった発見が得られるだろう。