マーケティング活動全体の設計図となる「パーセプションフロー・モデル」は、消費者のブランドに対する認識や知覚=パーセプションをベースにしたモデルだ。前回の概要に続き、今回はその効用を解説する。ピアノソロと交響楽団の違いを思い浮かべると理解しやすいが、何だか分かるだろうか。

(c)Ferenc Szelepcsenyi / Shutterstock.com
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 企業がメディアや購入場所といった接点で消費者を囲い込んでも、気持ちや認識が動かなければ購買行動を起こすことは難しい。人は興味を持ったものを欲しいと思い、欲しいと思ったものを買うのだ。いいものを作ることは必要条件であっても十分条件ではない。いいものだと認識されなければ購入意向につながらないことは、意外と忘れられがちな事実でもある。

 パーセプションフロー・モデルは、消費者の認識変化に着目したマーケティング活動の全体設計図だ。コミュニケーションなどの施策だけでなく、製品開発や価格政策など4P全域にまたがる包括的なブランディング活動や、市場創造のためのマーケティングマネジメントに不可欠である。

 全体設計図を描いておくことで、他部門や多様な新技術、複数の代理店をうまくオーケストレイト(統合)しやすくなる。ピアノソロなら楽譜がなくてもいいかもしれないが、何十人もの奏者を擁する交響楽団を指揮するためには相応の楽譜が必要だ。新しいマーケティングサービスも、全体設計図があれば認識変化のどの部分を担当してもらえばいいか分かりやすい。担当する役割が明確であれば、新技術を導入したのに使ってないといったこともなくなるはずだ。

パーセプションフロー・モデルのテンプレート
パーセプションフロー・モデルのテンプレート

製品体験こそ最も重要なブランド体験

 パーセプションフロー・モデルに従うことで、代理店や他部門向けのブリーフィングは一貫して、そして協調してブランド体験を提供するように設計できる。オンライン・オフラインのクリエイティブ、同じくメディアプラン、パッケージデザインから製品設計、店頭の経験や支払いに至るまで、すべてがブランド体験である。

 その中でも製品設計はマーケティングとは独立した機能だと理解されることが多いが、製品体験こそ最も重要なブランド体験と言っても過言ではないだろう。マーケティングの全体計画の中で設計された製品は、その他すべての活動と連動し、製品機能が設計通りの性能を発揮することで想定通りの上質なブランド体験につながる。作ったものを売るのではなく、ブランド体験を提供するものを作るのだ。

 製品開発における効果はそれだけではない。例えば、美容クリームのクリームそのものの色や、車のドアが閉まる音などといった知覚可能な製品属性はブランドの知覚品質に大きな影響を与える。消費者にとって無意識であるし、研究開発部門が管理することが多い項目なのでマーケティング担当者が注目しないことも多い。しかし、これらは見えにくいが重要な資源だ。消費者調査でもなかなか言及されないが、使用時の満足や購入意向に影響していることも少なくない。

 全体設計図があれば、こういった資源をうまく活用できることに気づけるし、その術も見つかるだろう。同様に、価格やオンライン・オフラインの購入接点についても、どのような認識変化を促すか明示することで、マーケティング活動の全体最適につなげられる。

製品分野の異なるブランド間で学びを共有

 実行の側面から観察すると、キャンペーンの実行中にラーニングを取りやすくなる(学びを得られやすくなる)ので、計画の修正やラーニングに基づく知識の蓄積もしやすくなる。製品カテゴリーの異なるブランド間でのラーニングの共有は大きな機会でありながら、実践できる組織は極めて少ない。パーセプションフロー・モデルという共通言語を通すことで、それぞれの経験値が流通しやすくなる。スキンケアブランドのラーニングをシャンプーで使うことも可能になる。

 また、計画の全容が俯瞰(ふかん)できることで、堅牢(けんろう)な戦略の構築と一緒に権限委譲にも大きく貢献する。複数ブランドをポートフォリオで管理するCMO(最高マーケティング責任者)などのマーケティングリーダーは、直接すべてのマーケティング活動に陣頭指揮をするわけではない。艦隊の指揮官は各艦の砲塔に直接指示を出すことはない。とはいえ、全容を把握する必要はある。明瞭な戦略と、各ブランドのパーセプションフロー・モデルに集中し、掌握しておけば、実行と市場への対応については大きく権限委譲することが可能になるだろう。

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